自治労連都道府県職部会が全国知事会と懇談
「住民の安全安心を守る自治体の役割は一層重要」
自治労連都道府県職部会は3月15日、「地方創生」、地方財政、地方分権改革、児童相談所の体制強化、原発再稼働問題などについて全国知事会と懇談を行いました。懇談には都道府県職部会役員、福島自治労連副中央執行委員長、杉本中執、久保中執が出席しました。全国知事会からは調査第一部長をはじめ担当者が出席しました。懇談の冒頭、森部会長(京都府職労委員長)が要請書を提出し、「原発やTPPをめぐる問題など、住民の安心・安全を守る地方自治体の役割がいっそう重要になっている。全国知事会もその立場でとりくみをすすめてほしい」とあいさつしました。懇談でのやり取りの概要は次の通りです。
1 地方交付税と地方創生
「トップランナー方式は民間委託を地方におしつけるもの」(自治労連)
「財源保障機能が損なわれないよう国に申し入れたい」(知事会)
自治労連は「地方団体の業務改革を地方交付税の基準財政需要額算定に反映するトップランナー方式は地方交付税制度の性格を歪め、民間委託や指定管理者制度など国の考え方を押しつけるものである。また、地方創生総合戦略と地方創生関連の交付金は、都道府県が積み重ねてきた計画を歪めかねない」と指摘し、知事会の見解を質しました。
知事会は「トップランナー方式で交付税が削減されることはあってはならないと考えている。配分の方法については、財源保障機能が損なわれないよう国に申し入れたい」との考え方を示しました。その一方で、「『行革』は多くの地方団体自らがやっており、やむを得ない側面もある。全体的に否定するのは難しい」と述べました。また、地方創生関連交付金については「使えるものはうまく活用すればよい。地方団体の計画を歪めるとは考えていない」との考え方を示しました。
これに対し、自治労連は「トップランナー方式は学校用務員の民間委託など、極めて少数(2割程度)の自治体しか導入していないことも含まれている。少数に基準を合わせることは問題である」「地方創生関連交付金によって、国の施策に都道府県が振り回されることが危惧される」と指摘しました。
知事会は「いろんな意見があるので、それを踏まえて議論していくべき。知事会としては『地方の声を聞くべき』というのが基本スタンス」と述べたうえで「経済財政諮問会議などでは『地方は無駄なことをしている』という前提で議論されている傾向もある。知事会と自治労連の立場は違えども、地方の声を反映させるため双方で努力しなければならない」と述べました。
2 TPP
「国会決議に違反し、政府調達などで地方自治が侵害される」(自治労連)
「不安や懸念は大きい。国に万全の対策を求める」(知事会)
自治労連は、コメ、牛・豚肉など重要5品目を関税撤廃から除外するとした国会決議に反する内容で国会承認行為が行われようとしていることや工業製品、サービス、政府調達、労働、医療などあらゆる分野に影響が及び、地方自治が侵害されるおそれがあること等を指摘し、見解を質しました。
知事会は「TPPに対しては、国民に対する情報提供や説明を十分行うよう求めてきた。大筋合意されたあとも説明や万全の対応を求めている。TPPに対する不安や懸念の声は大きく、こうした声に応えていくことが必要である。さまざまな意見があるので、意見を集約し、適宜、意見を述べたい」との考え方を示しました。
自治労連は「さまざまな意見はあるが、他国の例を見ても、国際的な入札によって政府調達がかなり低く下げられるのは明らかである。公契約の問題や地方自治も侵害されることになる」と具体的な問題を指摘し、全国知事会として意見を述べるよう求めました。
3 地方分権改革
「国機関の地方移転、権限移譲でサービス低下のおそれ」(自治労連)
「財源措置は国に要請していく。地方移転できない理由はない」(知事会)
自治労連は、ハローワークの地方移管や権限移譲による業務量増に対する人員・財源の不足、消費者庁の徳島県移転などについて「行政サービスが低下するおそれがある」と問題点指摘し、知事会の見解を質しました。
知事会は「ハローワークは地方移管によって、ワンストップサービスや就職相談から求職活動までの継続支援、産業政策とのマッチングなどが可能となると考えている。移管に伴う財源措置は知事会として要請している」「知事会は東京一極集中の是正の観点から国の省庁の地方移転を要請している。国会対応や省庁間の調整も必要ではあるが、地方移転できない理由とは考えていない」と述べました。
4 児童相談所の体制強化
「児童虐待の対応強化へ、抜本的な財政措置が必要」(自治労連)
「現場の実態うけとめ、厚労省にも要請していく」(知事会)
自治労連は「児童虐待への対応強化のため、都道府県の児童相談所の強化が要請されており、抜本的な財政措置が不可欠」と指摘し、知事会の見解を質しました。
知事会は「児童福祉司の増員のための交付税も増えた。知事会として厚労省にも要請している」と述べました。
都道府県職部会政策委員会からは「児童相談所の体制強化について、東京23区や中核市に児童相談所を設置するという厚労省の方針が報道されているが、高い専門性の求められる業務であり、人材確保・育成も困難な職種であり、都道府県の体制強化こそ求められている」と指摘しました。
また、大阪府職労、京都府職労連、滋賀県職からは、長時間過密労働を強いられている児童相談所職員の深刻な職場実態や人材確保の困難さなどの現場実態を訴えました。
知事会は、現場の実態を受けとめたうえで「現在、設置されている中核市は2市のみであり、厚労省方針にもとづく法改正が実行されれば5年を目途に国が環境を整えることになる。現時点では中核市への設置は義務付けられていない」と説明しました。
5 原発再稼働にかかる自治体の権限強化
「再稼働の同意権が、周辺自治体に付与されないのは問題」(自治労連)
「大津地裁の決定ふまえ、知事の意見を聴いて対応する」(知事会)
自治労連は、川内・高浜原発の再稼働が強行され、3月9日の大津地裁(滋賀)の「原発再稼働禁止仮処分」が決定されたもと、避難計画の策定が周辺自治体に義務付けられているにも関わらず、周辺自治体に「再稼働等にかかる同意権」が付与されていない問題等について指摘し、知事会の見解を質しました。
知事会は「再生可能エネルギーの導入をすすめている」と述べる一方で、「知事には原発に対するさまざまな意見がある」と述べるにとどまりました。
避難計画を周辺自治体にも義務付けているにもかかわらず、同意権も与えないことは、事故が起こったときの責任を自治体に転嫁するものであり、知事会として意見を述べるよう要請しました。知事会は「大津地裁の判決も踏まえた知事の意見も聞いて対応したい」と答えました。
最後に森部会長は、今後とも引き続き、現場の実情を伝えることのできる場として有意義な懇談を実施するよう要請し、懇談を終えました。