自治労連原発ゼロ・再生エネ政策検討委員会が、玄海原発立地・周辺の自治体、経済団体を訪問
避難計画、原発に依存しない地域づくりについて懇談
今秋にも玄海原発3・4号機(佐賀県玄海町)の再稼働が見込まれています。自治労連の原発ゼロ・再生可能エネルギー政策検討委員会(委員長・福島功副中央執行委員 長)は、6月22~23日、原発が立地する玄海町(人口約6000人)と原発から5キロ圏内の地域がある唐津市(人口約12万4000人)を訪問し、玄海町役場、玄海町旅館業組合、唐津市役所、唐津市商工会議所からヒアリングを行い、懇談をしました。
今回のヒアリング・懇談は、①玄海原発が地域経済、住民生活、自治体財政等に及ぼしている影響を調査し、自治労連の要求・政策づくりの取り組みに反映させる、②自治体関係者・経済団体等に、地域の振興、地方財政の再建、将来の原発に依存しない地域づくりに向けて、一致点での共同を広げる場とすることを目的に行ったものです。
昨年12月、玄海原発周辺の広域的な避難計画である「玄海地域の緊急時対応」が政府の原子力防災会議で了承され、原発から半径5キロ圏(PAZ)と5~30キロ圏(UPZ)の自治体に、避難計画の策定が義務付けられています。対象は、佐賀・福岡・長崎3県で圏域内の人口は26万人超。佐賀県内では、玄海町・唐津市・伊万里市3市で18万7000人余りに上ります。
玄海原発の避難計画について県内首長にアンケートを実施した「佐賀新聞」は、3月に結果を報じました。県および19市町の首長のうち、「不満」は伊万里市、佐賀市など8市町、「どちらとも言えない」は唐津市など9市町でした。唯一「十分」と答えた玄海町でも「『完全』にはまだまだ条件がある」と県全体への広報の徹底などを求めています。懇談で検討委員会がヒアリングをした概要は次の通りです。
「国の示す避難計画指針は、現実的かどうか疑問がある」(玄海町)
玄海町では西管理統括監、中島総務課長、井上財政企画課長らが対応し、原子力災害時の避難計画や原発と町財政について説明を受けました。
原発事故が発生した場合、全町民は約42キロ離れた小城市の指定された公共施設へ、集落ごとに避難をすることになっています。町内の中央部に1カ所ある小中一貫校の児童・生徒の避難について、町は優先して避難用のバスを学校に送り、児童・生徒を学校から小城市の避難場所まで直接移動する計画を立てていました。しかし、国の示した避難計画の指針では「親が迎えに来るまで児童・生徒が学校で待機すること」とされており、当初立てた計画の変更を余儀なくされました。「町民の中には、隣接する唐津市など町外で働いている人も多くいる。親が学校まで迎えに来られないケースを考えると、国の避難計画指針が現実的かどうかは疑問がある。県にも『現実的でないのではないか』と意見を述べている」と中島氏は言います。
避難が長期にわたる場合、仮設住宅などの設置が課題となりますが、「県や小城市とは、まだそこまでの話は詰められていない」とのことでした。また、町の実施する避難訓練に参加した町民は2割にとどまっており、「今後も町民への周知が課題になっている」と言います。
町の財政では、収入のうち原発関連の収入が約4割を占めています。地方交付税の不交付団体ですが、「1号機が廃炉になることで固定資産税の収入が減り、来年度は23年ぶりに地方交付税の交付団体になることが想定される。3.4号機が再稼働すれば再び不交付団体になる見通しだ」とのことでした。
「これからは、原発に頼らない地域をめざしたい」(玄海町旅館組合長)
玄海町内にある14の旅館で構成する旅館組合の組合長・溝上孝利さんからお話を聞きました。溝上さんは「玄海原発1号機はすでに運転停止で廃炉となる。新規増設もないだろう」「原発が動こうが、かつてのようにはならない。いつまでも原発には頼れない」と話し、スポーツ合宿の誘致や年2回サッカー大会を開催するなど旅館組合のとりくみを紹介しました。
「町内の旅館経営者は若手に世代交代している。新しい発想で旅館経営を行えるのではないかという期待もあるが、原発に頼らず自立して旅館の経営を行うように意識を変革するには、まだまだ課題も大きい」と話します。溝上さん自身も玄海町の魅力を発信するために「ふるさと納税」の返礼品に「真鯛の炭火焼き」を出品するなど、創意工夫を凝らし、全国から好評を得ています。
「原発がある以上、われわれの安全への努力には終わりがない」(唐津市)
唐津市役所の懇談では、秋山総務部副部長兼危機管理防災課長、阿曽企画部副部長らが対応しました。原発事故が発生した場合、唐津市民の避難先は隣接する福岡県を含め5市7町にまたがります。「県境を超える避難計画を策定するのに3年かかった。避難先となる全市町に毎年訪問している。各市町の担当者は2年くらいごとに替わるので、こちらから足を運び、顔の見える連携をしていかなければならない」といいます。原発事故が発生した場合、住民は自家用車で避難することを基本としていますが「1人暮らしの高齢者や障害者など要援護者の避難にはバス20台の手配が必要だ」と言います。「市にはマイクロバスが4台程あるだけ。佐賀県がバス・タクシー協会と協定を結んでバスを確保している。放射線量が高ければ民間の運転手に任せることができず、別途、運転手を確保するように県と協議をしている」「避難計画はあくまで計画であって、実際には、それを基に職員が現場で判断して動かなければならない。職員の判断力を磨くことが必要。一番の課題は、住民への避難計画の周知と並んで、災害対応への職員の意識づけだ」と話します。7つある離島には放射能対策用のシェルターを設置し、島民が1週間待機できることをめざしています。
住民の中には「実際に避難計画通りに避難ができるのかどうか」という不安があり、「結局、何かあったらおしまい」とあきらめの声も一部にあるとのこと。「でも、そう言ったら何も進まない。われわれ市職員はそれでも避難計画を策定して実効あるものにしていかなければならない。原発事故からの避難は本来、国が直轄でやるべきでないかという思いもある。しかし、原発がある以上、避難計画が100点になるまで、われわれの安全への努力に終わりはない」と言います。また「他の自治体で避難計画を担当されている方は、どんな点が課題だと考えているか、教えて頂きたい」と自治労連側に質問があるなど、避難計画づくりについて、自治体を超えて知恵を出し合うことの重要性を感じさせる懇談でした。
また、唐津市では、2012年に「唐津市再生可能エネルギーの導入等による低炭素社会づくりの推進に関する条例」を制定し、民間事業者とも協力して風力、バイオ、小水力、海洋などの再生可能エネルギーを推進する事業も進めています。「再生可能エネルギーで、当面22%まで自給率を高めたい。市が出資する電力会社の設立についても他市の例を調査して検討することにしている」と言います。唐津市の「再生可能エネルギー総合計画」によれば、「風力発電は、プロペラや発電機、土木工事など機械、繊維、建設といった唐津市の産業構成との親和性が高く」「わが国有数の産業集積地としての展開を可能にし、生産と雇用を新しく創り出すことを実現」するとしています。
「再生可能エネルギーを産業振興として、進めたい」(唐津市商工会議所)
唐津商工会議所では山下正美専務理事が対応しました。「商工会議所としては、安価なエネルギーを安定に供給するという観点から、安全を前提に早期に玄海原発の3、4号機の再稼働を求める立場だ。しかし、いつまでも原発に頼るわけにはいかない」と言います。かつて唐津市役所の職員として、市再生可能エネルギー導入条例づくりに携わった山下氏は、「再生可能エネルギーを、地域の産業振興として捉え、進めていきたい。再生可能エネルギーの部品を地元で作るなど、地域産業と結び付けられないか、地域振興策をいろいろと考えていきたい」と話しました。
唐津市の今後の地域振興については「人材の確保が課題。市内の旅館業や酒造業では、需要があっても人が足りない状態にある。既存の労働力を開発する余地は大きい」と言います。
自治労連からは「賃金の地域間格差が、地域によっては人材の不足を招いている。隣の福岡県のほうが最低賃金が高いので人材が流出している状態にある。最低賃金を引き上げるなど、生活できる賃金を保障することが人材確保にも必要」と意見を述べ、「これからも地域の振興へ、一致できる点で協力をしましょう」と伝えました。