第31録 薩摩の士風を育んだ郷中教育のまち
2018年10月号 Vol.539
「西郷(せご)どん」ゆかりの史跡
薩摩の士風を育んだ郷中教育のまち
鹿児島市加治屋町
▲甲突川の向うに見えるのが「維新ふるさと館」
大河ドラマ「西郷どん」の主人公、西郷隆盛のゆかりの鹿児島市加治屋町を訪れました。
わずか70戸の集落から幕末・明治の人材を多数輩出しました。
司馬遼太郎をして「一町内で明治維新やったようなもの」と言わしめた下加治屋町郷中(ごじゅう)。郷中とは薩摩藩が武士の居住区を分けた単位ですが、下加治屋町は約70戸から成り、ここから西郷隆盛、大久保利通を始め大山巌、東郷平八郎などを輩出しています。
場所は鹿児島中央駅から徒歩8分ほど。町中を甲突(こうつき)川が流れ、現在は散策道が整備され生誕地などにはそれぞれ石碑が建っています。
また、甲突川の対岸をはじめ隣接する集落も下加治屋町に劣らず人材を輩出しており、第2代総理大臣の黒田清隆、第4代松方正義、第8代山本権兵衛などもこの一帯の郷中の出身です。加治屋町散策のついでに足を伸ばしてみてはどうでしょう。
薩摩独特の郷中教育
薩摩藩の郷中教育というのは、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際、留守となった武家を守るためにできたと言われ、郷中ごとに青少年を小稚児(こちご=6~10歳)、長稚児(おせちご=11~15歳)、二才(にせ=15~25歳)、長老(おせんし=妻帯者)の4つに分け、年長組が年少組を指導するという「集団自治教育」システムです。
朝は年長者の家に集まり四書五経などの座学。朝食後は年長者は藩校造士館に行き、年少者は剣術の稽古。午後は相撲や「降参言わせ」など遊び、夜はまた年長者宅に集まり「赤穂義士伝」など軍記物の音読。
なかでもよく行われていたのが「詮議掛け」という討論で、たとえば「親の敵と主君の敵と同時に出会ったらどうするか」「自宅が燃えているとき藩の蔵書倉も火に包まれている、どうするか」など年長者が問いかけ意見をのべ合うというものです。
衆議を尽くしてより高い道理にたどり着く作業です。こうした討論を積み重ね緊急時のとっさの判断力や心構えをかねてから培っていきます。幼少期から十数年間同じ集団のなかで切磋琢磨しながら過ごすわけですから、これが薩摩の士風を育んだと言ってもいいでしょう。
加治屋町にある「維新ふるさと館」は幕末維新期の情報をまとめて学べるところです。そのあと史跡を訪ね、ドラマの登場人物や時代を体感してはいかがでしょうか。
▲歴史ロード「維新ふるさとの道」の門
▲下級武士の屋敷「二つ屋」を再現し、当時のくらしのようすがわかります
見聞録メモ
【維新ふるさと館】
所在地/鹿児島市加治屋町23番1号
交通/電車:鹿児島中央駅より徒歩8分、車:九州道鹿児島北ICから車で15分
開館時間/9時~17時(最終入館16時半)、年中無休
入場料/大人300円、子ども150円
問合せ/099-239-7700