「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」と「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」の実施の更なる徹底・強化に不可欠な児童相談所・一時保護所の拡充を求める(談話)
2019年3月1日
書記長 中川 悟
痛ましい児童虐待死事件が大きく報じられ、重大な社会問題として国民的議論が湧き上がっている。
自治労連は、一連の痛ましい事件を通し、子どもたちの尊いいのちを守ることができなかった行政の対応と合わせ、この議論を一過性のものとすることなく、子どもたちのいのちと権利に対する社会全体の意識の醸成を促していかなくてはならないと考える。
残念ながら児童虐待については、児童相談所や市区町村の児童虐待相談対応件数が増加し続けており、かつ重篤な児童虐待事件も後を絶たない。
政府は、昨年3月に東京都目黒区における5歳女児の虐待死事件や、今年1月の千葉県野田市における10歳女児の虐待死事件を受け、2月8日に開催した児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議において、「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策(2018年7月20日 児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議決定)」と「児童虐待防止対策体制総合強化プラン(2018年12月18日 児童虐待防止対策に関する関係府省庁連絡会議決定(以下『新プラン』という)」をさらに徹底・強化するとして、①児童相談所および学校における子どもの緊急安全確認、②要保護児童の個人情報取り扱いに関する新たなルールの設定、③児童相談所、市町村、学校および教育委員会の抜本的な体制強化、の3点を打ち出した。
子どもたちのいのちを救うことが何より優先されるべきであり、そこに行政が全力をあげることは当然である。しかし、そもそも増え続ける児童虐待件数に対し、十分とは言えない体制のもとで従事している児童相談所で働く児童福祉司等に、期限を設定した調査が更なる負担を強いることになることに危惧を抱かざるをえない。
今も各児童相談所では児童福祉司1人あたり100件近いケースを担当しており、昼夜・曜日を問わず日々の業務に追われている。さらに児童虐待の通告があれば、48時間ルールに則って子どもの安全確認を行っている。年度末は施設等に措置している子どもの措置替え等の事務処理が多く発生する時期でもある。
児童相談所の調査は、単なる安否確認に留まらず、保護者の状況、援助方針の見直しの状況、警察への情報提供の状況も回答することとなっている。実施にあたり確認する関係機関の優先順位を決めたり、他機関が確認した事案の情報共有方法を明確にしたりするなどして、児童相談所の負担を軽減しなければ、児童相談所の本来業務に支障が生じ、その結果防げたはずの虐待が防げなくなってしまったとしたら本末転倒である。
千葉県は今回の事案について、第三者による検証委員会を設置し、県の児童相談所、野田市、教育機関の対応や相互の連携について検証を行うとしている。現時点では報道から知り得る情報しかないが、関係機関において必要な確認や連携の不十分さなど、判断ミスがあったことは否定できない。事案の検証により対応の問題が指摘されれば真摯に反省し、再発防止にとりくまなければならない。しかし、残念ながら児童虐待に係る相談対応件数の増加は千葉県に限ったことでなく、全国的な課題であることを見過ごしてはならない。
2016年4月から2017年3月までの間に、児童虐待による死亡事例として厚生労働省が把握しているのは77人(親子心中を除くと48人)。その中に「救えたはずのいのち」があったかもしれないことは検証されるが、児童相談所の対応によって「救われたいのち」の統計はなく評価されることも少ない。しかし、児童虐待に関する効果的な仕組みの構築を論じるうえで、「救えたはずのいのち」の検証と合わせ、「救われたいのち」の検証、すなわち児童相談所等で日々奮闘してきた職員の活動にも光があてられなければならない。
「新プラン」では、2022年までに児童福祉司を2,020名増員して、2017年実績の62.3%増の5,260人にするとしたが、2月の閣僚会議ではこれを前倒しして初年度の2019年度に1,070人程度増にとりくむとした。そもそも、この10年で全国の児童虐待通報件数が3.3倍になったのに対し、児童福祉司の配置数は1.4倍に留まり、体制の強化は急がれていた課題である。
あわせて、自治労連が2012年に実施した全国調査では、児童福祉司の経験年数は1年未満23%、1年以上〜3年未満が35%と、実務経験3年未満が全体の約6割を占め、15%が無資格のまま児童福祉司に任用されている実態が明らかとなり、私たちは専門性の確保に向けた人材育成の重要性を指摘してきた。児童福祉司等の増員は急務であるが、一過性の対策とさせないためにも、持続的な職員確保の方策と並行して専門性の向上のための計画的な人材育成の施策が実施されるよう求めていく。
さらに関係閣僚会議では、保護者が虐待を認めない、児童福祉司等が子どもと会うことを拒むなどのリスクが高い事案は、躊躇なく一時保護・立入調査を実施するよう求めている。しかし、都市部の一時保護所を中心に全国的に定員に空きがなく、次の行き場が見つからないことから、一時保護は原則60日以内というルールも徹底できない状況が続いており、保護できる場所がないのが実情である。また一時保護中の教育保障、被虐待児・非行児・障害児が混合処遇されていること、保護の長期化に伴うリスクなどの課題も解決されておらず、一時保護所の拡充がなければ緊急総合対策の徹底・強化は実現不可能だといわざるをえない。「新プラン」の中でも一時保護の体制強化には触れられているものの、具体性にかける方針しか示されていない。老朽化が進む建物の改修も含めた緊急的な対策と一時保護所のあり方や職員の専門性向上などの抜本的な対策を厚生労働省へ求めていく。
児童相談所の業務のあり方については、2017年8月の「新しい社会的養育ビジョン(新たな社会的養育の在り方に関する検討会)」において、保護と相談の機能分化が提言された。それを踏まえ、社会保障審議会児童部会の社会的養育専門委員会下に「市町村・都道府県における子ども家庭相談支援体制の強化等に向けたワーキンググループ」が設置され、その検討内容が昨年末にとりまとめられた。
とりまとめでは、すでに管轄人口や虐待相談対応件数が多いところを中心に、保護機能(調査・保護・アセスメント機能)と支援マネジメント機能を分けて対応している児童相談所が35%あるという調査結果(児童相談所における調査・保護・アセスメント機能と支援マネジメント機能の分化に関する実態把握のための調査研究)もあることから、「保護者との関係を考慮するあまり、必要な保護が躊躇されることのないよう機関分化・部署分化を進める」という意見と、危機介入を含む保護機能と支援マネジメント機能は、子どもの権利擁護を図ることを基盤として、連続性を持って、また並行して行う必要があることから、「同じ機関内での意思決定という枠組みが必要」という意見と、両論が併記されたうえで、「都道府県における保護機能と支援マネジメント機能を確実に果たし、適切な対応を可能とする体制整備等については、その方向性を国が示し、それを実施するための計画を都道府県が策定する」と提言されている。
私たちは、機能分化ありきではなく、児童相談所が子どもの権利擁護を図るための機関であるという原点に立ち、児童相談所で日夜働く職員の意見を集約して、保護と支援のあり方について現場から政策提言することこそ自治体労働組合の任務であると考え、全国の子ども家庭相談現場で働く職員の学習交流集会を今秋に開催する準備をすすめる。
自治労連は、児童相談所や市区町村の子ども家庭相談など、児童虐待防止の第一線に立つ職員の労働組合として、児童相談所・一時保護所の体制整備と専門性の向上、市区町村の相談支援体制の強化を求める運動の先頭に立つものである。そして、子どもたちのいのちと権利が永続的に保障される地域社会の構築をめざし、地域住民との対話や関係府省との懇談の実施、都道府県・市区町村に対して相談支援体制の拡充を求める要請行動などにとりくんでいく。
以上