憲法をいかした未来の自治体づくり
自治労連・地方自治問題研究機構 設立20周年記念シンポジウム
▲左から榊原秀訓・南山大学教授、菊池一春・訓子府町長、河合克義・明治学院大学名誉教授、本多滝夫・龍谷大学教授、平岡和久・立命館大学教授
自治労連・地方自治問題研究機構の設立20周年記念企画シンポジウム「憲法をいかし、地域の未来をどう切り拓くか~『自治体戦略2040構想』と地方自治」が12月7日に東京都内で開催され、全国から83人が参加しました。憲法をいかし、住民が主人公となる地方自治体をどうつくっていくか、議論が交わされました。
▲訓子府町内を300円で移動できるオンデマンドタクシー
高まる自治体の役割 公助である福祉の充実を
明治学院大学名誉教授 河合 克義さん
シンポでは市町村の業務を「圏域」に集約し、自治体の仕事をAIに代替させて職員を半減化する政府の「自治体戦略2040構想」について、各パネリストは、財政学や行政法学などの専門的視点から問題点を指摘。「国や公益など全体のために、地方自治をつぶしかねない」と危険性を訴えました。
パネリストの一人、河合克義・明治学院大学名誉教授は、 社会保障・社会福祉の視点から問題点を指摘。「2040構想」では財政難などを理由に「公・共・私のベストミックス」の名のもと、「共助」「公助」を縮小し、地域住民に一方的に「自助」「互助」として福祉などを押し付ける狙いがあると解説し2018年の判例を紹介。この事例は、重度の障害を持ち、障害者自立支援法により重度訪問介護を受けていた利用者が、満65歳になる際に介護保険の申請手続きをせずにこれまで受けていた障害者福祉サービスの継続を求めましたが、自治体が拒否。1割の自己負担がある介護保険の給付を受けさせる行政処分に対して利用者が訴訟を起こし、高裁で利用者が勝訴、自治体は上告を断念し判決が確定したものです。河合氏は「共助である介護保険よりも、公助である福祉を優先させた画期的な判決」と解説しました。
また、小規模自治体の役割についても触れ、フランスでは自治体が3万5000以上あり、うち500~2000人規模の自治体が約1万以上、500人規模でも約2万あり、小さな自治体が住民福祉をしっかりと担っていると紹介しました。
住民が主権者でこそ地方自治はかがやく
訓子府町長 菊池 一春さん
北海道・訓子府(くんねっぷ)町の菊池一春町長は、町職員として働いていた経験や、平成の大合併を乗り越えて町長に就任した自らの経験に触れ、「日本国憲法の下で『自助』を優先することはあり得ない」とし、総務省が推奨する自治体合併や圏域化などによる行政規模の拡大ではなく、憲法に定められた条文をいかに実現し、具体的に実行するのかを「それぞれの市町村で住民自身が知恵を出し、困難を乗り越えていく仕組みづくりが必要」と住民参加型の行政の在り方を強調しました。
訓子府町では、憲法の精神を基調にした「すべての町民にやさしい町づくり」を実施するため、地域ごとに担当の職員を配置しました。義務教育終了までの医療費や保育料、給食費の無料化を実現しました。
また、高齢者などの足の確保のため、基本料金300円で町内のどこにでも行けるオンデマンドタクシーや、隣の市へ300円で行くことができるバスも整備。政策の実現から財政の立て直しまで「これまで職員や住民、議会と徹底して議論してきた」
最後に「厳しいことはあるが、住民が主権者として議論し判断すれば、地方自治はまだやれることがある」と社会教育の充実や住民投票などを規定する自治基本条例の制定など、住民自らが学び判断できることの重要性を語りました。