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第53録 「移動」が「旅」になる島をめぐる時間

いい旅ニッポン見聞録2020年9月号 Vol.562

沖縄と本土を結ぶ唯一の航路

「移動」が「旅」になる島をめぐる時間

フェリー那覇・鹿児島航路

▲マルエーフェリーあけぼの号(鹿児島新港)

沖縄旅行には飛行機を利用する方がほとんどでしょう。しかし、もう一つ、フェリーという手段があります。コロナが終息したらぜひ、那覇から鹿児島まで25時間、ゆったりと船旅を楽しんでみませんか?(取材は今年1月)

人も物も動物も運ぶ奄美群島の大動脈

まだ暗い午前6時。ゆいレール旭橋駅近くの那覇港フェリーターミナルに人が集まってきます。那覇・鹿児島航路は「マルエーフェリー」と「マリックスライン」の2社が交互に運航し、合わせて毎日運航となっています。今回はマルエーフェリーの「あけぼの」号。船体備え付けのタラップで乗り込み、午前7時、ようやく明るくなってきた空の下、出港します。

この航路は途中数カ所に寄港します。最初にとまるのは沖縄本島北部の本部港、その次は与論島です。ここはもう鹿児島県ですが、琉球弧に属し、雰囲気も琉球そのもの。青く澄んだ海が美しく続きます。

船上から荷物の積み下ろしを眺めていると、窓のついた見慣れないコンテナが…。奄美群島は闘牛で有名な徳之島をはじめ、牛の畜産が盛ん。牛を生きたまま運ぶため、このような牛用のコンテナを使います。今回は空のコンテナしか見えませんでしたが、牛の積み下ろしが見られることもあるとか。

ゆったり流れる時間を楽しむ旅

その後もフェリーは沖永良部島の和泊港、徳之島の亀徳港、奄美大島の名瀬港へと寄港します。

フェリーはかつて沖縄へのアクセスの主役でした。1972年の沖縄返還前後には多くの航路がありましたが、次第に飛行機に押され旅客が減少し、航路も次々と廃止に。近年は格安航空との競争にさらされ、東京航路は2014年に、阪神航路も2017年に休止となり、それぞれ貨物専用航路に転換しました。

そのなかで、鹿児島航路は奄美群島住民の生活航路として存続しています。寄港のたびに多くの人が乗降し、紙テープで別れを惜しむ人も。船内の設備やサービスも生活航路らしく簡素ですが、奄美群島の景色と海、デッキで感じる風が時間を忘れさせてくれます。

夜はベッドで横になってゆっくり休みましょう。昔ながらの雑魚寝部屋もありますが、25時間乗り通すなら個室か寝台がおススメ。2等寝台でもカーテンを閉めればプライベート空間を確保できます。ただし、枕は固いので要注意です。

目が覚めると、終着の鹿児島新港はもうすぐ。デッキに出れば、朝日のなか桜島が出迎えてくれます。飛行機と比べ時間はかかっても、そのぶん濃密な「旅」が体験できる25時間でした。

▲2等寝台でも意外と快適

▲徳之島・亀徳港出港の様子。寄港のたびに出会いと別れがあります

▲牛用コンテナの積み下ろし作業(与論港)