地方自治と住民サービスをどう守るのか 自治体DX
▲WEBを含め、学習交流集会に23人が参加
「自治体デジタル・トランスフォーメーション(以下、自治体DX)」など国がすすめる行政のデジタル化について、各自治体で計画・準備がすすめられています。一方で、医療費免除など住民のために行われてきた自治体独自の施策について「システム標準化」を口実に廃止を表明する自治体も出てきています。労働組合のとりくみと現場の声とともに、「デジタル化」の問題点について、あらためて学びます。
自治体の姿勢問われる「行政のデジタル化」
東京・世田谷区職労
東京・世田谷区職労は8月24日に区ですすめられるシステム標準化について学習交流会を開催し、職場への影響と課題を学び、共有しました。
河野真一郎副委員長が区のICT推進課の資料を参考に、2025年移行完了までの計画スケジュールと課題を解説。「現在のシステムと国の標準システムとの差を浮き彫りにして、分析するだけでも膨大な事務量になる。そこから事業ごとにメリット・デメリットを明らかにして区としての判断できる資料を作成することが求められる」と話しました。
住民の立場に立ったシステム構築・維持を
参加者からは「2000年の介護保険開始以来のボリューム。データ移行一つとってもハードルは高い。専任チームが必要であり、人員確保を部課長に求めている(介護保険課)」「コロナ禍で確定申告の時期が延長され、すでに残業も増大。専任チームを作りたくても困難(課税課)」と今後の不安があがりました。
河野副委員長は、「国は基幹的17業務(特別区は15業務)について、全国一律のシステムにすることで、法改正による一括修正やメンテナンス対応できることをメリットにあげているが、一方で最大公約数的なシステムになるため、住民のニーズに合わせて構築してきたシステムの独自性が損なわれ、サービスが低下する可能性が高い。区として補完するシステムをつくり、住民の立場に立った行政を維持しなくてはならない」と問題を指摘しました。
住民の福祉向上と職員の負担軽減が重要
行政のデジタル化について、河野副委員長は、「システムに合わせて業務を行うのか、業務に合わせてシステムを構築するのか。自治体の姿勢が問われる問題。住民の福祉の向上をどのようにすすめるのか。職員の負担をどう軽減するのか。全体を俯瞰(ふかん)し判断できる体制を確立することが重要だ」と語りました。
世田谷区職労として、引き続き進捗状況などを職場と共有し、必要な人員の確保を当局に求めながら、職員の労働環境の改善と住民の福祉向上を合わせて実現するため奮闘する決意です。
公務公共、地方自治の変質は許されない
自治労連が総務省ヒアリング
自治労連は、国がすすめる「デジタル化」による地方自治の変質に反対しています。各自治体で住民一人ひとりにあった行政サービスを提供することが本来の業務です。デジタル技術は住民の生活保障や公務公共の拡充のために利用し、働きやすい職場環境にすることが重要です。
この間、自治労連は総務省へのヒアリングを行っており、8月4日のヒアリングでは、総務省が7月7日に通知した「自治体DX推進手順書」について、「手順書は、地方自治法にもとづく技術的な助言であり、自治体に強要するものではない」ことを確認しました。
また、各自治体でCIO(※)補佐官を外部人材で活用する場合、あくまで「助言の事務」を行うのみとし、自治体の意思決定には関わらない。特にCIO補佐官等を業務委託する場合、「自治体職員に対して指示等をするということはない」と総務省も回答しました。
自治労連は総務省に対して、「推進計画は自治体が自主的に決めるもの。手順書と異なる場合でも、ペナルティを課すなど地方自治へ介入しないこと」を要求。また、外部人材の登用で公務の公正性が損なわれることがないよう、調達関係の入札制限の措置等を講じて総務省も責任をもつよう追及しました。
※CIO=Chief Information Officerの略。情報システム部門担当の最高情報責任者。
▲オンラインで地方からも参加し現場の実態を伝えました
書籍紹介
自治体DXでどうなる地方自治の「近未来」
国の「デジタル戦略」と住民のくらし
著:本多滝夫・久保貴裕
出版:自治体研究社
定価935円(税込)
問い合わせ先:自治体研究社
http://www.jichiken.jp/
E-Mail info@jichiken.jp
「自治体DX」って何?
総務省は昨年12月、「自治体DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進計画」を公表。情報システムの共通・標準化や行政手続きのオンライン化など、「行政のデジタル化」をすすめる方針を打ち出しました。政府は、6月の通常国会でデジタル庁設置法案をはじめ、個人情報関係3法などデジタル改革関連6法案を提出し、国民の議論を無視して採決を強行しました。
このうち「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」で、地方自治体の情報システムは国が定める「標準」に従うことが義務づけられました。住民基本台帳をはじめ、個人住民税などの税務から国民健康保険などの社会保険まで17業務が対象となり、各所管の大臣が標準化基準(標準仕様)を定めます。自治体独自の仕様変更(カスタマイズ)は原則禁止とされるため、住民の声をもとに実施されてきた各自治体の施策への影響が懸念されます。
9月に発足したデジタル庁は、予算と権限を握り、省庁に対して勧告ができる強い総合調整機能があり、各省庁だけでなく、補助金を出している地方自治体や準公共部門に対しても直接的・間接的な指導や締め付けが強められることが危惧されています。