〔88〕熱い思い胸に「横手のぼんでん」守るお祭り男
2022年3月号 Vol.580
熱い思い胸に「横手のぼんでん」守るお祭り男
秋田・横手市職労 佐藤(さとう) 貴史(たかし)さん
▲運行責任者として奉納に向かう佐藤さん
「ぼんでん(梵天)」とは、神霊が降臨するための標示物・依代(よりしろ)としての大きな御幣形のものを意味しています。五穀豊穣、家内安全、商売繁盛などさまざまな願いを込めて毎年2月17日、地元の旭岡山神社に奉納する行事で、およそ300年の歴史と伝統があります。竿の長さは約4・3メートル。その先に直径約90センチの円筒形の竹籠を取り付け、色鮮やかな「さがり」(布地や麻糸など)を垂らし、しめ縄や紙垂、鉢巻を取り付け、さらに干支や人形などの意匠を凝らした頭飾りをのせます。全体の大きさは5メートルを優に超え、その重さは30キロ以上にもなります。
2月16日には「梵天コンクール」も行われ、会場となる横手市役所本庁舎前には、本梵天、子どもたちの小若梵天、えびす俵が並びます。
小正月行事「横手のぼんでん」を盛り上げるべく、佐藤さんは先頭に立ち、職員労働組合の活動として「市民生活向上」、「市勢発展」の願いを込めた梵天を毎年奉納しています。
梵天と出会い 大役を引き継ぐまでに
佐藤さんと梵天との出会いは、同僚からの誘いでした。軽い気持ちでの参加でしたが、梵天の歴史に触れたこと、また先輩たちが築き上げてきた奉納実績と熱い思いが、佐藤さんの眠っていたお祭り魂に火をつけます。頭飾りの製作から始まる梵天ですが、深夜まで及ぶ製作の時間が参加者どうしのつながりを強め、この仲間との一体感がさらに梵天にのめり込むきっかけとなりました。
「横手のぼんでん」は、旭岡山神社へ各参加団体が決められたコースを通って、我先にと梵天奉納をめざし、道中や神社本堂で激しくせり合います。梵天を奉納するまでは、依代である梵天を倒さないために安全への配慮をしながら運行する必要があります。佐藤さんはその重要な役割である運行責任者です。「はじめは大役の重圧と緊張で、指示する時に使う首掛け笛をうまく鳴らせないほどだった」と話す佐藤さん。今では佐藤さんの鳴らす笛の音には勇猛さを感じるほどです。
横手の伝統を守り受け継ぐ
佐藤さんは「横手のぼんでん」の普及活動にも尽力しています。そのひとつとして自ら提案した「受験合格祈願ぼんでん」を市内の看護学院で行っています。「〝伝統行事を絶やさないために、我々職員が市民の先頭に立つこと〟これは最初に先輩から学んだことです」と話す佐藤さん。コロナ禍の昨年と今年はこれまでのような「横手のぼんでん」は実施されませんでした。しかし、横手の歴史ある梵天を守り受け継ぐ気持ちを途切れさせることなく、今も熱い思いを胸に日々仕事に励んでいます。
▲横手市職労の梵天。頭飾りに神輿を作製
▲「受験合格祈願ぼんでん」で学生に梵天について指をさして説明する佐藤さん
▲「横手のぼんでん」詳細は横手市観光協会ホームページをチェック