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静岡県牧之原市の認定こども園送迎バス放置死事件、悲劇を繰り返さないために ~ 国・自治体の公的保育責任の拡充を~(談話)

2022年9月16日
書記長 石川 敏明

 静岡県牧之原市の認定こども園で、猛暑の中、送迎バスに長時間置き去りにされた3歳児が命を失うという、あってはならない事件が起きた。昨年7月、福岡県中間市の保育園で同様の事件が起きたが、教訓が生かされなかったことに、大きな怒りが沸き起こる。

 昨年の事件後、国は、①子どもの出欠状況を保護者にすみやかに確認する、②送迎バスの乗車時、降車時に座席や人数の確認を行い、職員間で共有する、などの安全管理の徹底を全国の保育園、幼稚園、認定こども園に通知している。

 今回事件が起きた園では、これら国の通知はことごとく守られておらず、命を預かる現場にあってはならないずさんな実態が明らかになっている。なぜ徹底されなかったのか国として検証し、悲劇を繰り返さないために、原因究明と責任の所在を明確にするとともに二度と引き起こさない具体的対策が必要である。

 保育施設における重大事故は2015年に399件だったものが、2020年には1,586件と約4倍になっている。この要因は、新自由主義のもと、国が公的保育制度を大きく後退させ、様々な規制緩和を行ってきたことにある。加えて、公立保育所を民営化・民間委託へと政策誘導し、保育の実施主体である自治体の保育責任を後退させてきたことも大きく影響している。

 国は、2015年4月の「子ども・子育て支援制度」の施行に伴い、消費税の引き上げ分0.7兆円で保育の量的拡充と一部の質の向上に充てたが、残りの質の0.3兆円は未だに実施されておらず、そのため求められる保育の質は向上していない。

 その1つに70年以上改善されていない保育士配置基準がある。0歳児は子ども3人に対して保育士1人、1歳児は子ども6人に対して保育士1人、3歳児は子ども20人に対して保育士1人、4・5歳児は子ども30人に対して保育士1人など、子どもの権利・発達を保障し、生命を守るための基準を満たしていない。また、保育士不足も深刻である。この要因には、低い賃金と厳しい労働条件がある。賃金は全産業平均と比較すると年収で約100万円低く、さらに勤務時間のほとんどの時間を保育室で子どもと過ごし、発達を保障するだけでなく、子どもの安全や体調の変化に気を配る必要があるため、常に緊張状態にある。

 政府が「こどもまんなか社会」を掲げて2023年度設置する「こども家庭庁」の概算要求には、保育の質の改善につながる事項は一つも盛り込まれていない。今まさに、すべての子どもの権利・発達を保障するために、保育の実施主体である自治体責任を果たすにふさわしい保育士配置基準の抜本的改善、予算の充実を求められる。そして、このような悲劇を繰り返さないためにも、保育の市場化路線から公的保育制度を拡充させる道へと転換させ、国が責任をもって安心・安全の保育を実現する政治に切り替えていくことが重要となっている。

以 上