憲法をいかして住民のための良い仕事を
憲法15条「全体の奉仕者」とは何か
▲町長退任式で住民と記念撮影する藤澤さん
新入職員のみなさん。私たち公務員は、日本国憲法を守り、「全体の奉仕者」として住民のために良い仕事をしなくてはなりません。しかし、具体的にどう考え行動すればいいのか。難しく受け止めているかもしれません。そこで職員と首長の立場それぞれを経験してきた滋賀県・前日野町長の藤澤直広さんに話を聞きました(3月3日自治労連で行われた記念講演の要約)。
首長のためではなく住民のために働こう
私たち公務員は、まず職員採用の際に「全体の奉仕者として職務を遂行すること」と「憲法を尊重擁護すること」を宣誓しなければなりません。戦前の帝国憲法のもとで公務員は天皇に仕える立場でしたが、新しい憲法のもとで国民に仕える立場に変わりました。
職員のみなさんは、「全体の奉仕者」として知事や市町村長のために働くのではなく、住民のために働くことを肝に銘じる必要があります。私自身、町長時代に町役場のベテラン職員にも、新入職員の辞令式でも同様の話をしてきました。
そして、自治労連も「住民の幸せなくして自治体労働者の幸せはない」をスローガンにしている労働組合です。
公務員・労働組合として毅然とした態度を
私たちの仕事が憲法や法令の趣旨に反する可能性がある場合、意見をきちんと述べて議論することは当然のことです。
しかし結果として、時の政権、首長、決裁権者(上司)が正しく判断しない場合、もしくは真実を明らかにしない場合もあります。その時は労働組合が毅然として意見を述べ主張することが大切です。
私が県職員時代に空港建設計画(びわこ空港)で「本当に空港建設は住民のためになるのか」と、労働組合として反対の立場を表明し、職場と地域で議論を重ねてきました。推進する部署の仲間とも話しました。住民運動は広がり、結果、空港の建設は中止となりました。
また、日野町の合併が争点になった際でも、合併の賛否にあいまいな態度であった職員が住民から「職員が詳しくなければ、私たちはわからない」と叱咤されたこともあります。そう言われた職員は背筋がシャンとしたものです。
住民とともに平和を守り憲法いかすことを使命に
「憲法問題や防衛問題は政治課題だから」と組合員や職員のなかに政治への躊躇があると聞きます。しかし、憲法の精神を違える動きを黙って見過ごすことは、憲法のもとで仕事をし、憲法を守るべき公務員の存在意義が問われています。
政治の役割は、簡単に言えば、「平和でだれもがご飯をきちんと食べられる社会をつくること」です。政府が閣議決定した「安保3文書」は、防衛費の2倍化、敵基地攻撃能力の保持など、これまでの「専守防衛」の立場、憲法解釈に反するものであることは明らかです。そして、財源確保に社会保障などの一般歳出を減らしていけば、国民の生活を圧迫することになります。
憲法は先の戦争の痛苦の経験から生まれた平和への強い決意です。「自治体労働者は再び赤紙(召集令状)を配らない」。そのためにも、平和を願う広範な国民と手を携えて勇気をもって憲法を守り、いかすためにがんばりましょう。
前日野町長 藤澤直広さんに聞く
元滋賀県職員で労働組合員としても活動し、滋賀県職副委員長などを歴任。2004年の日野町長選挙で当選し、四期16年を務めました(2004~2020年)。現在は、現役の自治体首長と経験者でつくる「全国首長九条の会」に参加し、地元でも「滋賀首長九条の会」で事務局長として憲法9条の重要性を訴えています。
〈滋賀県日野町〉人口2万1000人弱の町。江戸時代に漆器や薬売りの行商から町を発展させ、「近江日野商人」で名をとどろかせた。平成の大合併で自分たちの町を守ることを決めた。名産に近江牛や「でっち羊羹」などがある。