【シリーズ148】わずか17音字で人間を詠む
2013年新年号 Vol.470
青森・つがる西北五広域(せいほくごこういき)連合職員労組 内山 宏さん
わずか17音字で人間を詠む
「ひゅるりひゅるひゅる自治労連の風になる」 昨年8月、愛媛県松山市で開催された「自治労連第34回定期大会」において、内山さんが委員長を務める「つがる西北五広域連合職員労組」が新規加入組合として承認されました。冒頭の句は、看護師として働く内山さんが、充実感を持って働ける職場、安心して受診できる病院をめざす思いで詠みました。 看護師、そして組合委員長という多忙な毎日をおくるなか、内山さんは地方紙『陸奥(むつ)新報』の川柳欄の選者、さまざまな川柳大会での入賞、『東奥(とうおう)日報』『青森県川柳社』への投句・掲載など、川柳作家として活躍しています。雅号(柳号)は「孤遊(こゆう)」。 「僕にとって川柳とは『人間を詠んだ17音字の詩(ポエム)』。あの時こんなことを考えていたんだなという自分自身の記録でもあります」と内山さん。創作にはじっくりと机に向かい、言葉をつむぎ出します。そこには内山さんの生きざまや日常がわずか17音字に深く込められています。
触れて下さい薔薇の刺(とげ)僕の棘(とげ)
内山さんの川柳のモチーフとして「貌(かお)」「穴」「棘」が頻繁に登場します。「棘」とは「わがまま」や「怒り」などの象徴。「人はみんな棘を持っていて、縮んだりニョキニョキと伸びたり。『誰か僕の棘に触れて』という思い」とはにかむ内山さん。「刺」と「棘」で表現を変えるのも一つの技法です。
もう誰も抜いてくれない僕の棘
一昨年、内山さんが経験した、つらい別れを詠みました。
線香花火ぽとり人って死ぬんだね
「ごつごつ」「バリバリ」など擬音語・擬態語も内山さんはよく使います。いのちの危うさ、はかなさを詠みました。
彫って彫られてああこれが僕の貌
「人の顔って、自分で彫り、人にも彫られて一人前の『貌』になると思う。人ってどうしてこんなに顔が違うんだろうね」と笑います。 内山さんが川柳をつくるために大事にしているのが映画を見ること。忙しい合間をぬい、年間百本以上を観賞し、『陸奥新報』に映画評を連載しています。「映画館は大人の学校だと思う。幸せな物語ばかりではないけれど、つつましやかな幸せのなかで一生懸命生きる人の姿がある。元気をもらえるし、またがんばろうって思えるよね」。そんな内山さんの夢は、
あの隅でいいから二等星になる
「真ん中の一等星でなくていい。隅っこでいいからほのかに光っていたい。これからもウソのない自分の姿を詠んでいきたいな」 つつましやかに、でも確かに、内山さんの決意がきらりと輝きました。
▲内山さんごひいきのお店「この花」にて(「ホテルニューキャッスル弘前」内)