第140湯 歴史と自然と静寂に包まれて動かざること山の如し
2012年6月号 Vol.463
「信玄の隠し湯」積翠寺(せきすいじ)温泉 山梨県甲府市
歴史と自然と静寂に包まれて動かざること山の如し
山梨県甲府市と言えば、まず思い浮かべるのは名将・武田信玄。信玄の父・信虎の居館であった「躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)」(現在の武田神社)の北に位置する「積翠寺(せきすいじ)」は信玄生誕の地、「積翠寺温泉」は甲府市街の北郊、要害山城(ようがいさんじょう)の麓にあります。戦国時代、信玄が「川中島の合戦」での傷病兵を入湯させたことから「信玄の隠し湯」とも言われています。積翠寺温泉とは要害温泉と古湯坊(こゆぼう)温泉の総称で、それぞれ1軒ずつ旅館が存在します。古湯坊温泉の「坐忘庵(ざぼうあん)」は標高780メートルに佇む隠れ宿。名前には「喧騒を離れ、無のなかに鎮座する」という意味が込められており、確かに、周りには山と自然以外、何もありません。露天風呂は静かで岩と竹林が美しく、夜は見上げれば星空という演出も伴って幻想的です。内風呂はそれほど広くはありませんが、朝なら窓から庭園が見え、清々しい気分です。 さらに甲府市の自然を堪能するなら、奇岩と渓谷美の「御岳昇仙峡(みたけしょうせんきょう)」へどうぞ。全長5キロにもわたる渓谷は花崗岩(かこうがん)(岩石)の山を渓流が削り取ったことにより形成されたもの。「ねこ石」「天狗岩」「猿岩」など奇石・奇岩が至るところに見られます。絶景スポットは「覚円峰(かくえんぼう)」と呼ばれる主峰。平安時代の僧侶・覚円が、畳が数畳敷ける広さの頂上で修行したと言い伝えられていることから、この名前が付きました。国の特別名勝に指定されたほか、全国観光地百選「渓谷の部」第1位にも選ばれています。渓谷に沿って遊歩道や「トテ馬車」と呼ばれる遊覧馬車、ロープウェイもあり、道路も整備されています。 食べ物では、信玄の陣中食だったと言われる「ほうとう鍋」が有名ですが、もうひとつ、町おこしをめざして注目を集めているのが「甲府鳥もつ煮」。鶏の砂肝、ハツ、レバー、きんかんを醤油ダレで照り煮したもので、2010年の「B−1グランプリ」(B級ご当地グルメ祭典)で第5回ゴールドグランプリを受賞しました。さまざまな食事処で、ほうとう鍋と並んでメニューに含まれており、市をあげて全国への普及にとりくんでいる様子が伝わります。 東京から約2時間。歴史あり、絶景あり、美味食ありと、甲府市観光はささやかな幸福をもたらしてくれるでしょう。
▲昇仙狭の主峰「覚円峰」。岩肌に群生する松やツツジ、紅葉など四季が色とりどりに峰を包みます
▲「甲府鳥もつ煮」(左上)は蕎麦店で考案されたそう。お店のMAPも配布されています
温泉メモ
【積翠寺温泉「古湯坊坐忘庵」】
【御岳昇仙狭】
- 交通/JR甲府駅バスターミナルより
- 路線バスで「昇仙狭滝上」まで約50分
【甲府市観光協会】
▲信玄の銅像(甲府駅前)