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【シリーズ144】「情」の世界にひたる人形浄瑠璃

My Way My Life2012年8月号 Vol.465

徳島・自治体一般労組 森(もり) かよさん

「情」の世界にひたる人形浄瑠璃

 語り、三味線、人形劇を融合した人形浄瑠璃。
 森かよさんは三味線から習い始め、いまは練習も公演ももっぱら太夫(浄瑠璃の語り手)をやっています。数年前には、兵庫県淡路島で開かれる、年に一度の素浄瑠璃(すじょうるり)コンクール、淡路素義(そぎ)大会で優勝するまでになりました。
 人形浄瑠璃の世界に入っていくきっかけは10年ほど前、人間国宝・鶴澤友路(つるざわともじ)師の三味線による『曽根崎心中』に聴き惚れてからです。アルファ波が身体に満ち、陶酔状態に浸れたと言います。
 週に1回、淡路島に通い、今はかけがえのない師匠となった鶴澤さんに直接指導を受けています。百歳近い師匠は弟子の技量に応じて指導し、ステップを引き上げてくれることが楽しいと語ります。
 また、太夫は詞(ことば)(科白(かはく))と音楽性を持った地合(じあい)(状況描写)で、あらゆる身分職業、立ち位置の老若男女を語り分け、演じます。そうして物語世界を創っていくプロセスが森さんにとっての悦びです。
 江戸時代に生まれた人形浄瑠璃は、忠と孝を核にした物語が多いのが特徴です。「ストーリー展開は荒唐無稽だったり、今の時代に合わないものもあるけれど、身分や儒教思想のしがらみのなかで、その瞬間を懸命に生きようとする人々の哀しみや情愛、人を思う心は、時代を越えて共感できるものと思う」と熱っぽく語ります。
 大阪の橋下徹市長が府知事時代、人形浄瑠璃を見て「二度と見ない」と語ったことがありました。「強者の論理に立つ人は、人の弱さや情がわからない、わかろうとしない」と、森さんはきっぱり。「助成がなければ、この世界の宝、世界文化遺産は継承できません。国立文楽劇場をめぐる動きに注目し、観劇・応援してください」と訴えます。
 徳島には各地に人形座とそれが演じられた農村舞台がたくさん残っています。「これから農村舞台で演じる機会がより多くあればいいな。農村舞台は、演じる側とお客さんが間近にある。お客さんが『よかった』と言ってくれる時、最高にうれしい」と、森さんは笑顔で抱負を語ってくれました。

▲舞台で浄瑠璃を語る森かよさん

▲夏季阿波人形浄瑠璃大会にて『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん) 野崎村(のざきむら)の段』