この間、一部マスコミを通じ、人気タレントの親族の生活保護受給に関わって、生活保護制度利用者や生活保護制度のそのものに対し、国民の誤解を招く不当な報道が続けられている。
自民党「生活保護に関するプロジェクトチーム」のメンバーである現職国会議員の発言がきっかけで始められた、一部週刊誌による異常な過熱報道の大きな問題点は、現行制度上不正受給にあたらない当該の事例に対し、あたかも不正受給であるかのような印象を国民に植え付ける内容となっている点にある。親族による扶養は生活保護の適用要件ではなく、従って強制できるものではない。話し合いの上、経済的な扶養が実行された場合に当該世帯の収入として扱われるものである。
この大前提を意図的に無視した生活保護制度に関わる報道内容は、国民の権利としての社会保障の基本的な観点を、個人あるいは親族の「自助、自立」の問題にすり替え、国の責任を大きく後退させる「社会保障・税の一体改悪」に迎合するものであり、到底容認することはできない。
一連の報道を受け、小宮山厚生労働大臣は、財界や自民党が求める生活保護基準の切り下げの検討とともに、生活保護受給者の親族に対し、扶養の可否について「証明」を求める旨の法改正を検討すると言及した。この発言は、生活保護制度利用者に対する機械的な就労指導の強化や、管理体制強化を狙う警察官OBの福祉事務所への配置など、これまでの受給抑制のための「運用」の締め付けから、生活保護法そのものの法改悪に踏み込む内容であり、社会保障の充実に責任を持つ大臣の発言として許されるものではない。
生活保護制度利用者は1990年代半ば以降、劇的に増加している。その背景には、社会保障制度の改悪とともに、不安定雇用労働者の増大、派遣切り、極めて脆弱な雇用保険制度や年金制度などがある。加えて日本の生活保護制度には、本来必要とする人の2割程度しか利用できていないという根本的な問題が横たわっており、こうした問題が「餓死」「孤独死」といった悲惨な事態が社会問題となる原因となっている。
さらに政府の生活保護制度「適正化」の背景には、労働者への一層の賃下げと雇用の不安定化を進め社会保障を「自己責任」とする、新自由主義に基づく「構造改革」を今後推進する上で、生活困難となった国民の最後の「拠り所」である生活保護制度を利用しにくいものとする狙いがあることも、見ておかなければならない。
最低賃金や労働者派遣法の抜本的改善など「働くルール」の確立や、生活保護制度を始め社会保障制度全体を拡充し、こうした事態をなくすことこそ政府が今とるべき政策である。
自治労連は、国民生活を支える社会保障制度の改善とそれを支える公務公共の拡充を求める各分野での共同を広げるとともに、生活保護制度に関わっては、2009年に行った全国福祉事務所実施体制調査に基づき、政府に対しては制度運用の改善と国の財政負担責任の実行を求めてきた。また、自治体当局には、ケースワーカーをはじめとする福祉事務所の人員不足の解消と、熟練と専門性を高めるための計画的人事配置を求め、こうした運動が各地で進められている。
今、自治体に求められることは、一部マスコミによる誤った報道や、厚労省による過重な就労指導の強化、警察官OB配置などの管理体制強化に追従することではなく、福祉事務所の人員をはじめとした実施体制を拡充し、憲法25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活」を保障することにある。
自治労連は、憲法が保障する国民の権利を守るため、生活保護制度を国民から遠ざける運用や法制度の改悪に反対するとともに、福祉事務所の抜本的な実施体制の強化の職場段階からのたたかいを、「社会保障と税の一体改悪」許さない共同の取り組みと結合し、奮闘するものである。