第142館 あきらめない熱意が上総ノリを誕生させた
2014年3月号 Vol.484
千葉県君津市 君津市漁業資料館 ノリと海の資料館
あきらめない熱意が上総ノリを誕生させた
千葉県君津市の海岸沿いは1960年代に埋め立てられ、新日鐵住金・君津製鉄所となっていますが、かつては遠浅の海が広がる「上総(かずさ)ノリ」の一大産地でした。
昔の海岸線にほど近い、漁村の佇まいを残す地域の一角に、君津市漁業資料館があります。市内の有志が結成した「君津市漁業資料保存会」の活動を引き継いだ市の資料館で、ノリの養殖を中心に埋め立て前の海と漁業について展示しています。
君津は、江戸末期に千葉で初めてノリの養殖が行われた、上総ノリ誕生の地です。その立役者はノリ商人の近江屋甚兵衛(じんべえ)。55歳の時、江戸を出発し、「ヒビ」というノリをつける木の枝を海に立てさせてもらうよう各地の名主を説得して歩きます。しかし、沿岸での漁の邪魔になると許可してくれる名主はなかなか現れません。浦安、市原、木更津と断られ続けましたがあきらめず、江戸での俳句教室のつながりからたどりついた君津の名主に許可を得て、ようやくヒビを立てることができました。そして試行錯誤の末、1822(文政5)年に養殖に成功しました。やがて上総ノリは江戸で人気を呼び、沿岸に養殖が広がってきます。
展示でおもしろいのは、争議の記録です。名主などによるノリ生産の独占と海の排他的利用が反発を呼び、1894(明治27)年に「ノリ解放運動」と呼ばれる争いが起こります。暴力事件になり、法廷闘争が行われました。結果的には、より平等な取り決めがなされ、和解条件を確認する文書が展示されています。他にも、実際に使われた道具とリアルな人形を用いた養殖技術の変遷や作業工程が解説・展示されており、失われつつある地域の記憶に触れることができます。
甚兵衛が名主と初めて会談をしたという近くの人見山からは、かつてヒビが並んでいただろう場所に製鉄所の煙突が林立している景色が見渡せ、感慨深いものがあります。
▲近江屋甚兵衛の像
▲ノリの収穫作業は冬の重労働でした
ミュージアムメモ
所在地/ |
千葉県君津市人見1294-14 |
電話/ |
0439-55-8397 |
交通/ |
JR内房線木更津駅から富津公園行「神門(ごうど)」下車徒歩1分、JR内房線青堀駅から徒歩15分 |
入館料/ |
無料(※ノリつけ体験:10人以上で事前に予約が必要) |
開館時間/ |
午前9時~午後4時30分 |
休館日/ |
月曜日・国民の祝日・年末年始 |