「デジタル化」で住民のいのちとくらし守れるのか 自治体DX?
公務公共労働者の役割とは
▲白藤博行さん
「自治体デジタルトランスフォーメーション(DX)」という国による地方行政の「デジタル化」が急速にすすめられるなか、自治体や公務員・公務公共労働者の役割について、専修大学の白藤博行教授を講師に1月22日、自治労連主催の学習講演会を行いました。
対人サービス民営化がねらい
職員の対人サービスを形骸化する「デジタル化」
日本の人的資源・物的資源・財政的資源が乏しいという言い訳をして、国・政府は、その尻拭いを「自助、共助、公助」の発想のもと、国の助けを求めるのではなく、自助でなんとかするように国民や自治体に求めています。たとえば、人員不足が生じても、それをコンピュータやAIで穴埋めするという発想しかありません。
コンピュータやAIができるところは任せて、自治体職員は対人サービスが必要なところにまわすと言いますが、実際には対人サービスは民間化して、資源を制約しようとするのが「デジタル化」のねらいです。
わずかな公務員だけ残りあとはいらない
第32次地方制度調査会の答申では、「地方行政のデジタル化」が最優先課題のように見えますが、「公共私の連携」と「地方公共団体の広域連携」の課題が真の目的です。この目的達成の最良の手段が「デジタル化」なのです。
とくに「公共私の連携」論は、公務労働縮減論であり、公務員の縮減に行きつきます。国家にとって重要な公権力を行使するわずかな公務員だけがいれば足り、あとは民間でかまわないという発想です。
すでに昨年末の総務省調査によると全国で地方自治体職員が270万人、そのうち約68万人が会計年度任用職員となっており、今後もっと拡大されます。
行政手続に職員の知恵や裁量権が発揮されるか
「デジタル化」は、紙から電子情報化するという単純な問題ではありません。行政手続や行政過程がまるごと「デジタル化」されれば、人間の判断は不要になります。すでにドイツでは行政手続法が改正され、AIによる行政処分が可能になっています。ただ、いまのところ要件が厳しく利用度は低いようです。はたして、行政分野では人の知恵や裁量権が発揮されるか、大きな問題です。
生産性や効率性を優先してはいけない自治体の役割
そもそも自治体の役割や仕事は生産性や効率性を優先できない、あるいはしてはいけない行政サービスの提供であって、基本的人権保障行政なのです。生産性や効率性を高め、最大利益を追求する企業のサービスではありません。地域の人づくりや自治づくりが基本です。生産性や効率性を最優先させ、競争に勝つための「デジタル化」をすすめることが、本当に私たちのいのちやくらしを守る仕事、地方自治になるのか。みんなで考えてみましょう。
本の紹介
デジタル化でどうなる暮らしと地方自治
白藤博行・自治体問題研究所編
自治体研究社
定価:本体1400円+税