公共を住民の手に取り戻すために いまこそ自治体の役割発揮を
「季刊・自治と分権」で岸本聡子杉並区長と座談会
▲杉並区長 岸本聡子さん
きしもと・さとこ
国際政策シンクタンクNGO「トランスナショナル研究所」の研究員。世界の自治体や教育機関、市民団体とともに活動。各地の公共サービス民営化の実態と、「再公営化」の事例を調査。2022年6月の杉並区長選挙で「公共の再生」を公約にかかげて初当選。
昨年6月、東京・杉並区長選挙で、「公共の再生」を公約にかかげた岸本聡子さんが初当選しました。自治労連・地方自治問題研究機構は、発行誌『季刊・自治と分権』の企画として、「公共を住民の手に取り戻すために」をテーマに、岸本区長を囲んだ座談会を開きました。その座談会の一部を紹介します。詳しくは『季刊・自治と分権』90号をお読みください。
公共サービスは100年単位で考える
座談会で、岸本聡子区長は国際政策シンクタンクで20年間、水道など公共サービスの調査研究にとりくんできた経験から民営化の問題点を指摘しました。「企業の利益のためにコストが高くなる一方で、公的な組織から公共サービスを担う知識や専門性が奪われた。西欧では再公営化が労働問題の改善やサービスの向上に大きく寄与している」と話します。
これから求められる公共サービスについて、「重要なのは気候変動への対策です。広域かつ長期的で100年単位で考えなければなりません。民間に切り売りすれば、公共政策が及ぶ範囲が分断されてしまう」と警鐘を鳴らします。
また、公民館や児童館など公共施設のあり方も課題になっていることについて、岸本区長は「公民館は文化や自治を育てていく地方自治のゆりかご。民営化で住民が公共施設の管理運営に関われなくなれば、自治や文化が失われてしまう。住民に身近なところから、公共を取りもどすために奮闘したい」と話しました。
「いのち、公共を守れ」職員と住民の思いが一致
岸本区長の話を受け、長坂圭造副中央執行委員長は「保健所や職員の削減で、新型コロナから住民のいのちが守れなくなっている。職員は過労死ラインを超えて働かされている。いのちと公共を守れという思いは、職員も住民も一致している。自治体職員として憲法を学び、自らの仕事にいかすことが大事だ」と話します。
岸本区長も「区民のために、区長と職員が自ら考え、実践できる区役所にしていきたい」と答えました。
公共を再生する自治体のネットワークを
尾林芳匡弁護士は、国がすすめるPFIについて会計検査院が「サービスが低下し、財政のメリットもない」と報告した動きに注目。各地で水道や学校給食の民営化をストップさせた運動を紹介しながら、「日本でも民営化狂騒曲から目を覚ますとき」と訴えました。
岸本区長は「公共の再生をめざし、未来を見据えて戦略を練っていける自治体のネットワークを一緒につくりましょう」と述べました。
晴山一穂名誉教授は「憲法を住民のくらしにいかす自治体を全国に広げることが大事になっている。住民、自治体労働者、専門家が共同し、全国で公共を取りもどす運動を前進させましょう」と呼びかけました。
▲座談会には、(左から)長坂圭造自治労連副中央執行委員長、司会の晴山一穂福島大学・専修大学名誉教授、岸本聡子杉並区長、尾林芳匡弁護士が出席
▲福島大学・専修大学 晴山一穂 名誉教授
▲自治労連 長坂圭造 副中央執行委員長
▲尾林芳匡 弁護士
▲座談会は1月発行の『季刊・自治と分権』最新90号に掲載中です