67冊目 満潮の時刻
2024年6月号 Vol.607
67冊目
満潮の時刻
遠藤周作/著
肋膜炎で徴兵を免れ、終戦を迎えた主人公の明石。数十年が経ち、再び病に侵された明石は療養生活を余儀なくされます。つらく苦しい病床ではさまざまな「死」のイメージが付きまといます。黄昏の、乳色の空にたちのぼる煙。屋上から見える病室の夫婦。死を見つめる生き物たちの眼差し。
本作は、同著者の『沈黙』と強く結びついており、遠藤文学を掘り下げる一作とも言えます。戦争と接点を持てなかった人間が、人生の意味を掴み取ろうとする姿は無意味に映るかもしれません。しかし、どんな経験や感傷でも、救済を求める心理は身近なものだと感じるのです。
新潮社
2002年1月
295ページ
定価:649円(税込)