メニュー

第91録 備中松山城と雲海に包まれる山並み

いい旅ニッポン見聞録2024年12月号 Vol.613

弁柄で統一の吹屋の町並み 大事にしたい日本のアカ

備中松山城と雲海に包まれる山並み

岡山県高梁(たかはし)市

▲雲海…山城の前に雲海は見えなかったものの、山々を包み込む雲海に絶句

雲海 ―山々の息づかい

午前6時半、雲海の中の備中松山城を見るため、山あいのまち、岡山県高梁市の雲海展望台に到着。早朝にもかかわらず、展望台には割り込まないと見られないほどの観客。出遅れた私は展望台の床下に三脚を据えることに。揺れ動く雲海に1時間見入っていました。雲海は中国山地の、山々の息づかいだと気づかされました。山城の紅葉、遙か遠くまで広がる雲海、山並みは絶景でした。

唯一天守が現存する山城

高梁の魅力が詰まった書籍『たかはし散歩』を片手に、日本三大山城の1つ、標高430メートルの備中松山城へ。1240年鎌倉時代、高梁のまちを一望する臥牛山(がぎゅうざん)に砦を築いて以降少しずつ形を変え、1683年の大改修により今の天守の姿になりました。天守が現存する山城はここだけです。急峻な岩山の上に天然の巨岩や地形を生かし石垣を築くなど驚きです。NHK大河ドラマ「真田丸」のオープニングの石垣のいくつかは、備中松山城のものが使われています。

吹屋弁柄 ―日本のアカ

高梁市街から車で約45分。弁柄(べんがら)と銅(あかがね)の町・吹屋の里に到着。吹屋で1707年から生産される弁柄は、九谷焼、伊万里焼など陶磁器の絵付や輪島塗などの漆器、衣料の染色、家屋や船舶の塗装などに使われる、なくてはならない赤色顔料です。

弁柄工場を復元してつくられた資料館のベンガラ館の案内によると、商人の蔵には弁柄色のものが多く、「アカではあっても、それはしっとりと落ち着いた日本的色調の赤であり、けばけばしく人の心を苛立(いらだ)たせる赤ではなかった」と解説があります。

650メートル続く吹屋の町並みは、赤銅色の石州瓦と弁柄色の外観で統一され、今も昔のままです。近くには、2012年の閉校まで現役最古の木造校舎だった旧吹屋小学校もあります。暮らしに溶け込む弁柄のアカ、大事にしたい日本のアカだと私は思います。

▲備中松山城…「難攻不落の名城」だからこそ、天守は現存したのだと言われている

▲吹屋の町並み。豪商たちが話し合い宮大工を招いて作り上げた