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第110館 人間の力と苦悩を描く、国民的文学作家

日本列島 おどろき・おもしろミュージアム2011年3月号 Vol.448

東京都青梅市 吉川英治記念館

人間の力と苦悩を描く、国民的文学作家

 梅林で有名な旧吉野村梅郷(ばいごう)(現東京都青梅市)の西端に、吉川英治がくらした屋敷があります。幕末に建てられた木造建築で、英治は草思堂と名付けました。もともとは養蚕農家が使ったものだそうです。  吉川英治は1982(明治25)年、横浜市に生まれ、横浜ドックの船具工、ラセン釘工場の工員、蒔絵師の徒弟など、職業を転々としながら、貧しいくらしのなか、雑誌などに投稿し続けました。  1914(大正3)年、講談社の懸賞小説に応募し『江の島物語』が一等に当選すると、『親鸞記』『剣難女難』『鳴門秘貼』を次々と発表しました。朝日新聞に連載された『宮本武蔵』は、剣禅一如を求道する武蔵が太平洋戦争中の人々の心をとらえ、代表作となりました。  1944(昭和19)年、英治は家族とともに東京赤坂から、この地に疎開しました。英治は敗戦の衝撃から一時執筆をやめ、厳しい反省のなか、晴耕雨読の日々をおくったそうです。親友の菊池寛に後押しされ、執筆を再開し、敗戦の日本と平家を重ねて描いた『新・平家物語』で第1回菊池寛賞を受賞しました。  吉川英治は、約80の長編と180の短編という膨大な数の小説を執筆し、「人間」を深く描き、国民的文学作家として広く大衆に支持されました。その業績を伝えようと財団法人吉川英治国民文化振興会が設立され、草思堂の敷地内に記念館が建てられました。  記念館には英治の直筆原稿やそれらが掲載された雑誌、初版本、取材ノート、挿絵の原画、万年筆のほか、家族との写真などが展示されています。また、英治がくらした母屋の一部と離れの書斎も見学できます。書斎は簡素なつくりで整然としていますが、医学書をはじめ、多岐にわたる蔵書が並び、吉川文学の底流を見ることができます。  梅の咲く季節、青梅マラソン開催時は混雑が予想されますのでご注意ください。

▲離れにある書斎は、母屋の日本家屋とは趣が異なり、洋風を取り入れた建築になっています

▲書斎の机の上には『日本医学史』『足利時代の研究』など歴史関係の書籍や筆、硯など



ミュージアムメモ
所在地/ 〒198−0064 東京都青梅市柚木町1−101−1
お問合せ/ 0428−76−1575
交通/ JR青梅線「二俣尾」駅下車徒歩15分、
青梅駅より都バスで吉野(玉堂美術館)行き
開館時間/ 3月〜10月:午前10時〜午後5時
(入館は午後4時30分まで)、
11月〜2月:午前10時〜午後4時30分
(入館は午後4時まで)
休館日/ 月曜日、年末年始
入館料/ 大人500円、中高大学生400円、小学生300円