第28録 暮らしの息遣い感じる青空の下の博物館
2018年6月号 Vol.535
伝統的な町家を今に伝える町並み
暮らしの息遣い感じる青空の下の博物館
大阪府富田林市
▲重要文化財・(旧)杉山家住宅。杉山家は富田林寺内町の創設にかかわった旧家の一つ。江戸時代は造り酒屋として栄えました
大阪府内でもっとも着物の似合う町とささやかれる富田林市の旧市街地に位置する「寺内町」と呼ばれる地域を訪れました。
真宗の寺院を中心に、寺域の周囲に堀や土塁、石塁などを巡らすなど防衛体制を整えた町のことを寺内町と呼び、1558年~1561年頃に誕生した富田林寺内町地域も寺院を中心とした町づくりから始まりました。
江戸時代に移ると、南河内地方の米、酒造、木綿、菜種油、木材などの商品・作物の交易と流通の商業の町へと変わります。文化の町としても栄え、杉山家(寺内町の創設にかかわる旧家)や御坊が能や浄瑠璃など入場料をとって町人に見物させていました。一方、町人の間では俳諧がブームとなったそうです。
ゆっくりと町を散策すれば、重厚感のある漆喰の瓦屋根の家が並び、装飾と魔除けを兼ねてあしらえた鬼瓦、かまどの煙を外に出すためにつけられた越し屋根など、建築の一つひとつに当時の細工と工夫が見てとれます。
また大店の商家の住宅は、建築年代が江戸時代から昭和にわたっていることから建築様式、外観が少しずつ異なっていて、そのデザインの違いを見比べてみるのも楽しみ方の一つです。
こうしたさまざまな歴史を持ち、町家ウォッチングを楽しめる富田林寺内町は、青空の下の博物館のようです。
伝統漂う町並み。それがしっかり保存されてきたのは地元住民による地道な保存運動が背景にあるそうです。他方、寺内町地区一帯では空き家や空き地が目立っているとか。現在は、空き家や空き地の利用活用がすすめられており、伝統的な町家を利用した手作り陶器・雑貨、工房、カフェやフレンチなどお店が増えてきています。
お店の外観はもちろん歴史的景観に溶け込んでいるので、思うように見つかりません。発見できたとき、小さな喜びを感じることができます。
伝統的な町家を残す町並みとともに、今も生活の場として地元住民が暮らす富田林寺内町は静かに佇んでいます。
その静けさのなかに感じることができる、当時の面影と今の暮らしの息遣いが重なる空間に足を踏み入れれば、まるでタイムスリップをしたかのようです。
▲寺内町の温かみのある魅力を伝える、きりえ作家・近藤好幸さんの作品の絵葉書やカレンダーは、じないまち交流館で購入できます
▲2015年4月にオープンした女性限定のゲストハウス「泊や」。オーナーは「忙しくされている方にほっこりしてもらいたい」
見聞録メモ
富田林寺内町へは、JR新幹線・新大阪駅から地下鉄御堂筋線で天王寺駅にて乗り換え(徒歩)。近鉄南大阪線あべの橋駅から河内長野行き準急(約30分)、富田林駅下車。徒歩10分