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包括委託を進める島田市(静岡県)に自治労連・弁護団・研究機構が現地調査

住民サービス低下、市職員の専門性喪失、嘱託員・臨時職員の雇い止め、偽装請負、個人情報漏えいなど数々の問題点を指摘

 自治労連は、1月21日、今年10月から嘱託員・臨時職員が担うすべての業務を対象に、包括的な民間委託を進めようとしている島田市(静岡県)で、自治労連・静岡自治労連・自治労連弁護団・自治労連地方自治問題研究機構による現地調査を行いました。この調査は、政府の「公的サービスの産業化」(2015骨太方針)の方針に沿い、会計年度任用職員制度の導入に合わせて全国でも異例な規模での民間委託を進めようとする島田市の実情を把握し、アウトソーシングに対する自治労連の取り組みに活かすために実施したものです。島田市は、行政経営部人事課の担当者、顧問弁護士が対応しました。

 調査では、島田市に対し、①包括委託への移行を検討している業務について、「公務の運営は任期の定めのない常勤職員が行う」という原則から外すのが可能であると判断した理由・根拠は何か、②市職員のノウハウや専門性をどう確保するのか、③民間にさせてはならない公権力行使の業務を受託会社が行ったり、市職員と受託社員との直接のやり取りが避けられず偽装請負になるおそれがあるが、法違反にならない措置をどうとるのか、④住民の個人情報をどのように保護するのか、⑤嘱託員・臨時職員が大量に雇い止めされるが、雇用をどう確保するのか、⑦災害時や受託企業が契約途中で突然撤退した場合にどう対応するのかなど、全国で業務を民間委託した自治体で発生している事例をもとに質問し、市の考えや対応をただしました。

自治労連の具体的な指摘に、島田市は「住民サービスを低下させない」「法令を守る」など一般的な回答にとどまる

 島田市は「会計年度任用職員制度が導入されると、財政上、市の嘱託員・臨時職員をこれまでと同じように任用することができないので、包括委託に移行する。総務省は、公権力の行使や政策判断ではない反復、定型的な業務については外部委託を認めている」「今後、労働力人口の減少も危惧され、市職員のノウハウを蓄積していく業務についても選択と集中を考える必要がある。窓口業務など繁忙な業務を民間に委託すれば、市職員は政策立案など本来行わなければならない業務に集中でき、ノウハウや専門性は維持、蓄積、継承されると考える」「労働関係法令を遵守できるよう、仕様設計を当然考えていくところである」住民の個人情報の取り扱いは、適切に指導、監督していく」「受託者を決めるのに企業の信用情報を確認する」と答えました。

 これに対し自治労連調査団から、「戸籍業務を委託した東京の足立区では、公権力行使の業務を受託会社が行っており、戸籍法違反で法務局から是正の指導を受けた。区は、窓口で疑義があるたびに受託会社の社員から区職員に問い合わせるよう仕様を変更したが、今度は偽装請負で労働局から是正の指導を受けることになり、委託した業務を直営に戻した。浜松市の学校給食や大阪市の窓口業務では、委託契約途中で業者が撤退している。島田市でも同様の事態が生じる可能性があるが、どう対応するのか」「窓口業務はそもそも、住民の生活実態を把握して必要な行政支援につなげる重要な部署だ。窓口業務に正規職員を配置している自治体の事例にこそ学ぶべきでないか」など、各地の具体的な事例を取り上げて、起こり得る問題への市の考えや対応を質問しました。

 島田市は、「住民サービスは低下させることがないように、適正に対応できる体制をつくる」「顧問弁護士の助言を仰ぎ、先進的に実施している例を参考にしながら適切な仕様書を作成していく」「情報管理の仕組みについて、先進事例があれば参考にしていく」など一般的な回答にとどまりました。

 自治労連調査団から「先進事例を参考にすると言うが、具体的な事例が念頭にあるのか」と質問すると、島田市は「先進事例を抱えているであろうという自治体を探しながら、と言うことになる。(市として)一つの先進事例をいち早く察知するノウハウはない。先進事例は自治体の交流などで集めていくしかない」と答えました。

 市の嘱託員・臨時職員の雇用について、島田市は「市としても重要なことと考えている。受託会社への雇用継続についても、就労を希望する人が就労できるように法令上許される範囲内で可能な限り対応していきたい」と答えましたが、雇用の確保については明言しませんでした。包括委託の労使での取り扱いについて、島田市は「管理運営事項であり労使交渉の対象ではない」と答えましたが、自治労連調査団から「職員の雇用、労働条件に関わる問題であり労使交渉事項である」という指摘も受け、「包括委託に伴って労働条件の問題が具体的な形で現れれば、労使交渉に応じていく。現場の声をシャットアウトして勝手に進めるようなことはしない」と答えました。

「住民サービスに責任を持った対応を」「職場の声を踏まえ、労使交渉を尽くすべき」と要請

 自治労連調査団からは、「島田市が今後、どのような対応をするのかを全国が注目している。住民サービスに責任を持った対応を行うよう、慎重に取り扱って頂きたい」「住民にも情報を公開し、職場の声を聞いて労使交渉を尽くして頂きたい」と改めて要請。その後、島田市の案内で包括委託への移行を検討している本庁舎内の窓口部署などを訪問し、調査を終了しました。

 調査団に参加した静岡自治労連、島田市労連の役員からは、市の認識や対応に疑問の声が多く出されました。今後、労働組合としての対応を強めるとともに、自治労連弁護団は包括委託問題の意見書作成を進め、研究機構は各研究会への報告や地方自治雑誌への論文掲載などを行う予定です。

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