自治労連公営企業評議会が2019年省庁要請行動を行う
自治労連公営企業評議会(以下、公企評)は1月18日、東京・衆議院第2議員会館において省庁要請行動を行い、29名(13地方組織・16単組)の参加で内閣府(PFI推進室)、総務省、国土交通省(水行政、公営バス事業)、厚生労働省(水行政、公営バス事業)、経済産業省(公営電気事業)、環境省、農林水産省の7省庁9部門に要請しました。
今回の要請は、先の臨時国会で水道法「改正」が強行され、上下水道事業へのコンセッション導入の可能性が高まった中で行われました。関係省庁は昨年同様「コンセッション導入は選択肢の一つであり、導入するかは各事業体の判断だ」と口を揃えて回答しました。
公企評は、「選択肢の一つというなら他の選択肢も示すべき」という立場を明らかにし、地方公営企業の再構築を図る公公連携構想など具体的対案を示して「いまならまだ間に合う」と訴えました。
「優先的検討」は「指導」ではないか 【総務省要請】
公企評は、コンセッションは経営効率や基盤強化のための手法の一つといわれるが、総務省は各事業体に対して技術的助言として「優先的検討を通知している」ことから、各事業体に民間活用を行なうように「指導」しているのではないかと追求しました。
総務省は、「民間活用の検討をした上で基盤強化につながり、住民サービスの向上につながるのであれば民間活用を進めてもらいたい、コンセッションは必ず導入しなければいけないものではない」と回答しました。
公企評は、過去に総務省からの自治体への厳しい定数管理があった時に、各事業体ではアウトソーシングの有効・無効に限らず、定数管理ありきで人減らしが行われ、結果としてアウトソーシングが進み、技術力を失った。今回のコンセッション・広域化もこれと同じ様なことが起き、さらに技術力が落ちていくことを危惧していることを総務省に投げかけました。
また、コンセッションを検討している事業体は経営が安定しているところであり、「経営基盤強化」といっているが「何かおかしくないですか」と問いただし、唯一の選択肢でないのなら「優先的検討」という表現を改め「別の選択肢も示すべきだ」と迫りました。
≪すでに行った広域化の検証を行い慎重に進めるべき≫
広域化について総務省は、「技術を持った職員が退職で減少していることは課題であると認識しており、広域化ですべてが解消されるとは思っていない」が、広域化することで業務改善が出来ればと考えており、例えば、集約前に1人しかいないところでも、4人で4つの水道事業を行なえば個々人の負担が軽減されるのではないかと回答がありました。
これに対し公企評は、広域化後に一括発注することで人員削減を行なう計画(千葉県・君津広域化)や、広域化により自己水源を廃止しダム水源比率が高まり災害時の安全性にも問題(香川県)がある。最悪の事例では、三重県が計画した用水供給事業を廃止し、伊賀市の水道事業が用水供給事業のために建設した浄水場とダムについて引き受け、財政悪化する事態まで起きている、などの実例を挙げ、広域化の問題点を指摘しました。
総務省は「検証が必要だ」との考えを示しましたが、公企評は「検証が必要だというが、広域化は一度すると戻せない。給水原価の安い近くの水源を廃止してしまったら検証しようとしても比較できない。すでに危惧した事例が出ているのだから慎重に行うべきだ」と強調しました。
最後に、福祉水道の観点からも、上下水道等の公共料金には消費税を課税しないようにすること。少なくとも2019年10月に予定されている消費税率引き上げを実施する場合はその対象外とするよう、関係省庁に働きかけることも要望しました。
コンセッションは国費の使い方が不透明にならないか 【国交省要請】
コンセッション導入にあたっては「指摘の通り、官民リスク分担、災害時対応は重要と認識している」として「自治体に対し適切に助言したい」と回答しました。
公企評は、浜松市での下水道コンセッション事例を取り上げ、「公共工事が一社独占状態とならないか危惧している」と指摘し、特に「特命随意契約」について「わたしたちの認識では、特別な理由がなければ随意契約は使えない」が、この仕組みでは運営会社(SPC)への一社発注が続くのではないかと指摘しましたが、国交省は「最初のSPCの選定にあたり競争が働いている」との認識を示しました。
また、「コンセッション事業に国費が入るのだが、会計検査は誰が受けるのか?浜松市は会検を受けられるだけの知識が残るのか」の質問には、「受検は浜松市。浜松市は県から移譲された施設の管理であり、他の処理場は浜松市が管理しているため脆弱化することはないと考えている」としながら、「(国費を)入れる側としても工事額の妥当性について、何らかの方法で担保していただく必要がある」との認識を示しました。
公企評からは、丸ごと下水道事業をコンセッションに出すような事業体には、事業費が判定できる職員が残るのか多いに疑問がある。「これはモニタリングというより国費の使い方なので国交省もしっかりと考えておく必要があるのでは」と指摘しました。
≪委託管理能力維持のため一部でも直営の方向性を≫
国交省は「職員の減少は業務執行体制の脆弱化を招くため重要な課題だと認識している」としながらも補完するため官民連携を推進している。として、技術力保持のため一部直営で維持している事業体のことは承知しているが「各自治体が自らの判断で行ってもらいたい」として助言は行えない立場を示しました。
公企評は、「各事業体の判断にまかせる」というのでは「委託管理能力も失ってしまい、ガイドラインも空虚なものになるのでは」と、これまでの主張を述べました。
国交省は、ガイドライン作成には自治体の職員も入って知見をいただいているが、一部直営化について、大都市は直営管理も成り立つが、中小は現実的に技術力がないので「補完する第3者(コンサル)」も必要だろう、と考えていることを話しました。
公企評は、これまでも「小さい事業体のために」といって委託を推進したが、大きい事業体もこれに「のっかってしまう」、結局、人を減らし技術を失っていった、と訴えました。
国交省は「委託に出せば人を減らすベクトルになることは事実」と認めながらも「我々としては(直営を)残してくれとは言い難い。踏み込めない」との回答に終始しました。
公企評は、この「一部直営の助言の話は国交省側から出たもの」という過去の経緯を説明し、国の後押しは圧倒的に強い、過去にこの交渉で実例を挙げた「京都の小栗栖排水機場の浸水事故でもモニタリング能力が失われていたことが露呈した」今のご時世で「直営を残せ」とは言えないと思うが、なんらかの歯止めがなくては、大都市でも残せなくなる。「これで本当に大丈夫ですか?」と食い下がりました。
それでも国交省は、「技術力の確保が重要ということは理解している。直営の事例紹介をしていく」との回答にとどまりました。
≪下水道に紙おむつを流す技術は行き過ぎではないか≫
下水道に「直接、紙おむつを流せる」実証実験は、下水道の付加価値を高めるとして実施しているが、現在でもさまざまな支障物が流れてくるのに「(下水道は)なんでも流せる」ということにならないか?現場では心配する声があることを伝えました。
国交省は、「高齢社会における介護負担の軽減というニーズがある」としながら、有識者会議でもマイクロプラスチック問題は課題として出されているため「慎重に検討していく」と回答しました。
公企評は、確かに報告書には「下水道の適正利用」も書かれ今後検討としているが「まずそちらが先ではないですか」と指摘しました。
国交省は「使う側の倫理も含め、制度設計をする必要がある」「いくつかのパターンを検討している」と説明し、「流すことありきで動いているわけではないことは理解していただきたい」と考え方を示しました。
公企評は、「ニーズがあるというが、都市部のニーズを取り入れれば結局は他へ拡大していく。また、付加価値を高めると下水道使用料に跳ね返るが、下水道の原点に立ち返れば過剰な投資ではないか」そこを押さえてほしいと要望し、国交省は「真摯に受け止める」と答えました。
≪コンセッションが拡大すれば災害支援体制の公平性がなくなる≫
最後に、コンセッション事業が拡大した場合の災害支援体制について再度触れ、「徹底的合理化を行った民間企業からは災害支援能力も失うだろう、一方の公営企業は上下水道料金で災害支援の人材を派遣する仕組みで、そこに本当に公平性があるのか疑問」であるとの懸念を訴えました。
国交省は、浜松市は始まったばかりで部分的だが、「現在の協定は公営同士を前提としている」全国ルールは下水道協会が決めているが「今後、コンセッションによる事業形態が浸透していった場合は見直しが必要で、配慮されるべきだ」との考えを示しました。
コンセッションはリスク分担が不透明【内閣府・厚生労働省要請】
前半はコンセッション導入を推進する内閣府と、水道事業所管の厚労省が同席する場でコンセッション方式の問題点について追及しました。
選択肢の一つというのなら「他の選択肢はないのか」の問いに対して、内閣府は「各事業体は、本当に住民サービス向上になるかを検討して導入することになる」「他の選択肢については、管轄は厚労省」とかわし、厚労省は「今回の改正でも市町村原則は変わっていない」「公営水道の足元をしっかりとしてもらうため資産台帳の整備や管路更新計画などを進める」「公営水道であっても適切に事業運営を行ってもらいたい」と公営存続にあたっての見解を述べました。
この回答を受け公企評は「制度設計をした内閣府に質問したい」として災害時のリスク分担について追求しました。
内閣府は「リスク分担は重要で官民の役割分担をしっかり決めていただきたい」と答えましたが、公企評は「コンセッション方式を採用した自治体との災害協定は自治体間で決めるのか、運営会社と採用した市の間で決めておくのか」「コンセッション採用の自治体から支援を受けた時は別途費用が発生するするのか」と問いただしました。
内閣府の答えは不明確であったため、公企評は「そこは国が関知しない」というのでは2者間の契約で災害支援の水準が決まってしまう。先の要請で国交省は、いままでのやりかたはできないと認識した。いままでは公公間の支援体制であったから日水協もまとめられたし、水道法改正に関わる委員会では日水協・元尾崎理事長も公平性について発言していた。こんな大事なことは、制度設計で想定することなのに「契約でリスク分担をしてください」では「災害支援は大丈夫」は空論じゃないですか!と語気を強めました。
東京の参加者からは、「災害対応は、国がしっかりと指導してもらわないと弱体化する一方。3・11の時には東京でさえお手上げの状態となった」と発言し、災害時にもライフラインをまもる水道事業の大切さを訴えました。
≪ペナルティを受けないか心配≫
内閣府が全額補助する導入可能性調査委託を行っている和歌山市の参加者からは、「補助金をもらっているのに、導入しなかった時にペナルティがないか心配している」と質問。内閣府は「そのようなことはないので心配いらない」と答えました。
公企評は「その予算、台帳整備に使ってもらった方がいいのでは」と苦言を発しました。
≪再構築のため公公連携の具体化を≫
後段は厚生労働省に広域化の課題や人材育成について訴え、私たちは「官民連携」に違和感があり公民連携と言っている。私たちは対案として公公連携を提言しているが、技術を有している事業体が周辺事業体を支えていく公公連携は2002年水道法改正の時にも言われていたことだ。今ならまだ政令市などは技術力を残していて間に合うので具体化を図ってほしいと要望しました。
厚労省は「現場の状況については昨年も要請をいただいている。今後、できるだけ意見反映していきたい」と答えました。
産廃や放射能から水源をまもる施策を 【環境省要請】
環境省には、産業廃棄物処理や放射能で汚染された汚泥の処理について要請を行いました。産業廃棄物処理については、和歌山で水道の浄水場上流部に建設計画がある最終処分場建設に対して、地域住民の建設反対運動で不許可になった例を挙げ、水道水源を含む水環境に負荷を与える場所における最終処分場建設は許可できないようにできないのかと要望しましたが、環境省からは処分場建設の許可は、都道府県や政令都市が行うのであり、適正に審査が行なわれていると回答しました。再度、国として住民が安心できるよう水源上流に最終処分場の建設が不許可になるようにできないのかと要望しました。
また、東日本大震災で発生した放射能で汚染された汚泥の処理について保管場所の確保と処理方法の確立を早急に行うことを要請しました。放射能で汚染された汚泥はまだ処理することができず施設内に山積みになっていることや、施設外に移動すらもできない現状を訴え、早急な対策を求めました。
そして、ひとたび事故が起きれば汚染物質が拡散され、また長期間処理できない廃棄物が出る原子力発電所の早期の廃炉を関係機関に働きかけるよう要請しました。
水源林をまもる労働者の労働条件向上を 【農林水産省要請】
農水省への要請は「新規ダムは作らない」という方向性や水源涵養としての森林や水田の利用など、「生存権」に基づいた健全な水循環構築において幾つかの点で公企評と政策が一致しており、例年、建設的な意見交換と前向きな回答が得られています。
しかし、昨年の「種子法廃止」や「改正漁業法」とともに国会で可決された「森林経営管理法」では所有者の管理が困難となった私有林を市町村が民間企業へ委託するという、公共財産を利潤の対象、「商品」としてしまうことが懸念される内容となっています。
今回はこの「森林経営管理制度」における農水省の方針の確認を中心に要請・質問を展開しました。
≪森林環境税は利益優先の伐採の財源にならないか≫
この制度は、高齢化や過疎化により管理が困難となっている私有林の所有者を「林業経営意欲の低い小規模所有者」とみなし、「意欲・能力のある林業経営者」へ委託する。また、委託に同意しない所有者に対しては、市町村が勧告すれば同意したとして市町村が管理するという内容となっています。
懸念されるのは、木材チップ原料として価格が上昇している経済状況により、「意欲・能力のある林業経営者」がその利益を優先し、皆伐や巨大な林道敷設により森林の荒廃を助長、水系下流域の水質や水量に多大なダメージを与えることです。更に、国有林についても来年度同様の立法を目指すことや、近年創設された「森林環境税」が利益優先の伐採の財源に使用されるのではないか?という憶測もあり、その使途内容の公表についても回答を求めました。
この懸念に対し、農水省は、すでに問題となっていた私有林管理に対し、所有者と民間のみに任せているデメリットを問題視し、行政の介入の必要性から、強制ではなく所有者が納得した上で市町村が管理計画を立て、伐採・搬出のみ施行するだけではなく、長期委託により植栽その他、正しく管理できる業者を選定し委託するものと回答しました。
国有林については、来年度国会審議の予定ではあるものの私有林とは内容が異なり従来の単年度契約委託ではなく長期契約とするもので経営管理主体は変わらず国であるとの回答でした。また、森林環境税の使途公表に対しては、その実績を年に一度実施する予定であると回答しました。
この回答は、一般的に不安視される内容とは差があり、農水省自体の説明は一定評価できるものです。
しかし、今後、管理する立場としてより重要となる自治体管理能力やその職員数の維持に不安が残ります。また、行政・民間にかかわらず林業従事者は、就業者自体は微増しているものの、労働環境・条件については他業種に比べ労働災害が多く賃金も低いデータがあり、喫緊の課題としてその改善が重要です。
原発依存体質を改めること 【経済産業省要請】
経産省へは、原発依存体質への追求と、既存の水力発電の適正な評価について訴えました。
公企評は、2030年のエネルギーミックスの比率を、原子力発電20~22%と高い比率で位置づけており、そのためには今現在稼働している9基を含め約30基を稼働させようとしている。「これは可能な限り依存度を低減するということと矛盾しているのではないか」「目標を修正すべきではないか」と追及しました。
経済産業省は、「原子力のエネルギーミックスの比率は達成可能な数値であるため、現時点においては修正する予定はない」とこれまでと同様の説明であり、原発を40年で廃炉するという法律を作ったのにも関わらず、電力会社に有利な解釈により再稼働や期間延長が行われるのではないかといった疑念が残る回答でした。
公企評は、3年に一度見直しが行われるエネルギー基本計画の見直しの都度、原発の再稼働が進まない現状を踏まえた目標の修正を行うよう、改めて要請を行いました。
<廃炉費用は実質的な国民負担≫
福島第一原発は事故により廃炉が決定となりましたが、太陽光発電所の撤去費用を事業者が負担するのと同様に、原子力発電所の廃炉は事業者である東京電力の責任で行うべきです。しかし、その費用はコストが安いとされている原子力発電による売電収入から、事業者が積み立てていなければなりません。公企評はかねてから「原発事故の補償は電力会社が負えるような額ではない」と訴えてきましたが、事業者は積立を怠ったうえ賠償費用等などを安く考えていたため、実際の事故で膨大な補償費用等が発生しています。
これらの廃炉費用について、経済産業省は、「廃炉を躊躇させないために託送料金に上乗せして費用を捻出する」と説明し、「事業者において、新たな積立金や経営効率化により捻出した財源を廃炉費用にあてる」との説明がありました。
しかし、従来の電気事業における総括原価主義の考え方からすれば、経営効率化等により生じた利益は、本来、低廉な電気料金として受益者に還元されるべきものであるにもかかわらず、その利益を廃炉費用に充てるということは「見えない国民負担を強いているということだ」と追求しました。
公企評は、「廃炉費用のほとんどが国民負担となっている現状を、きちんと説明する必要があるのではないか」と指摘しました。
≪既設の水力発電をもっと評価すべき≫
再生可能エネルギーの一つである水力発電は、昨年9月に発生した北海道胆振東部地震による大規模停電においても、外部電力を必要としない電力として北海道管内の電力供給の一翼を担うなど、重要な電源であることが再認識されたことを強調し、既設水力発電所の課題について訴えました。
経済産業省は、リプレースにおけるFIT認定から設備廃止までの期間について、「本来、廃止とともに認定すべきものであるが、水力発電の特性に鑑み、2年の猶予期間を設けているもの」との説明がありました。
公企評は、「減価償却期間の長い水力発電は、2年間では十分な期間とは言えない」と指摘したところ、経済産業省から「他の業界団体からも意見をいただいているところであり、今後検討していく」との前向きな回答がありました。
要請には宮本岳志、高橋千鶴子、本村伸子衆議院議員、吉良よし子参議院議員、6室8名の議員秘書も関係省庁の要請に同席し、要請行動終了後には要請の要点整理をしながらの意見交換を行いました。