全労連・公務部会が「道州制を許さず、憲法にもとづく国と自治体のあり方を考えるシンポジウム」を開催
11月9日に全労連主催の「道州制を許さず、憲法にもとづく国と自治体のあり方を考えるシンポジウム」が行われ、公務関係労組、市民団体、研究者など90人が参加しました。
●地方分権推進のなかで検討されてきた道州制は、究極の「構造改革」
はじめに全労連・大黒作治議長からこの間の地方分権推進のなかで道州制導入が着々と進められてきた歴史的な経過に触れながら「いま安倍自公政権は国家安全保障会議(NSC)設置法案や特定秘密保護法案を今臨時国会で成立させようとしている。全労連は『輝け!憲法キャラバン』を10月26日から12月6日まで47都道府県で展開し、各自治体に憲法にかかげる戦争放棄や社会保障を守るなど懇談や要請を行っている。道州制は財界がねらう究極の構造改革であり、国民のくらしを守るために道州制導入を許さない運動を進めていこう」とあいさつがありました。
続いて、行財政問題総合研究所・永山利和理事長が「府県をなくして自治を破壊し、改憲を進める『道州制』移行をストップし、国民主権・国民生活を基本とする国と地方のあるべき方向を探る」のテーマで基調講演しました。基調講演では「今日の道州制は、地方分権改革推進の流れのなかで1998年の橋本内閣の中央省庁等改革基本法の第2条の基本理念の中に戦後の社会経済体制を『公正で自由な社会』へ転換するという新自由主義的な方針からうちだされたもの」と指摘。「安倍政権が主導する道州制のねらいは、アベノミクスに見られる経済政策を最優先に進めつつ、改憲をなし崩し的に進めていこうとするものだ。しかし、地域や各分野から、道州制に対する抵抗や運動が広がっている。今後は、共同した運動を広げ、運動の力を強めていくことが大切だ」と述べました。
●各シンポジストが、道州制の問題点と憲法をいかす運動について語る
シンポジウムは、永山利和理事長の進行で各シンポジストから発言がありました。三重県朝日町・田代兼二朗町長は、「10年以上に及ぶ平成の大合併を総括すべき。合併は、国の財政破綻の地方への転嫁、アメとムチによる強制、交付税削減、行財政改革の押しつけ、住民サービス低下などもたらした」と実態を報告したうえで、「福島県矢祭町が『合併しない宣言』をしたのをはじめ、『全国小さくても輝く自治体フォーラム』の開催など、合併をしない自治体が集まって学び合い、知恵を出し合いながらまちづくりを進めてきた。いま道州制の動きの中で、外堀が埋められてきていると思う。今後も、住民の顔が見える、小さい自治体だからこそできる行政サービスを進めていきたい」と述べました。
全生連・前田美津恵事務局次長は「3年間で670億円削減の戦後最大の生活保護基準引き下げが強行された。いま1万人以上が審査請求をしている。生活保護者の増加は、不十分な年金など社会保障制度の悪さと低賃金をおしつける労働政策に原因がある。生活保護基準の引き下げは、住民税の非課税基準をはじめ地域別最賃、就学援助など38制度に影響を及ぼす。社会保障制度改革推進法では、介護、年金、保育、医療を見直していくことを明記し、附則で生活保護見直しをかかげて、生活保護改悪を突破口にすべてを改悪しようとしている。道州制は福祉を市町村へ丸投げし社会保障の国の責任を放棄し『自助』『共助』へ進めるものだ」と述べました。
自由法曹団・尾林芳匡弁護士は「自由法曹団として道州制を批判する意見書を発表した。道州制推進基本法の目的は、期限を区切って具体的な制度設計を議論し、速やかに道州制へ移行することにある。成立すれば期限を区切って一気に道州制への移行が事務手続きの段階に進む。道州制導入について日本経団連は『究極の構造改革』と位置づけて公務員の大幅削減など求めている。ねらいは国の責任を否定して地域間格差を拡大させ、財界本位に財源を集中投入することにある。社会保障や労働などに対する国の責任放棄であり、憲法25条2項の解釈改憲だ。道州制導入で住民のくらしや福祉に対する声が反映しなくなる。しかし、全国町村会をはじめ道州制導入に反対する声が地方に広がっている。共同の力を結集していくことがいま求められている」と述べました。
●国や自治体のあり方がどうあるべきかが、たたかいの焦点。共同運動をさらに広げよう
フロアー発言では、自治労連都道府県職部会の白鳥裕一さんが地方分権改革における都道府県の動きや、県から市町村への権限委譲の実態、今後、厚労省の業務を中心に国から県へさらに業務が委譲される動きを報告し、「職場から都道府県など自治体の果たす役割を明らかにする自治研活動を進め、知事会など地方団体との懇談、自治体要請や憲法キャラバンなどの取り組みを広げていくことが大切だ」と発言しました。国土交通労組から、気象庁測候所の削減、道路特定財源の一般財源化、独立行政法人改革による統廃合や民営化の実態について発言。全労働からは、ハローワークの地方移譲・民営化や労働基準行政の空洞化など、国民の安全や安心に関わる部分が切り捨てられている実態を発言。全教から「教育委員会制度を改悪して市長または教育長への権限を強化する動きがあり、教育の中立性や安定性など損なわれる」と発言がありました。
シンポジストからは「道州制の問題点について、分野ごとに具体的に明らかにしていくことが必要」(尾林弁護士)、「道州制によって私たちの声を届けられなくなるのがいちばん不安」(前田・全生連事務局次長)、「現場から学習を進め、全国的、組織的な運動が必要。住民と一緒にがんばっていきたい」(田代町長)と述べました。永山理事長は「道州制や地方分権の中で、各分野の現場に矛盾が大きく広がっていル。より良い国や地方をつくるために運動する人々を広げていきましょう」とまとめました。
最後に全労連公務部会・野村幸裕代表委員(自治労連中央執行委員長)が「今日のシンポジウムを通して国や自治体のあり方や役割はどうあるべきかということがいま問われており、たたかいの焦点となっていると感じた。経済的格差を社会的格差にしないことが国や自治体の役割だ。安倍政権は『世界で一番企業が活動しやすい国にする』『戦争できる国にする』として、国会では様々な悪法が審議されている。道州制導入によって民主主義を破壊し、地方を統制しようとしている。国民をないがしろにする政治に対し大きな共同の力ではねかえしていこう」と閉会のあいさつを述べ、終了しました。