自治労連生活保護職場担当者の全国交流集会
“人間らしく生きること”を保障する仕事と職場の確立を
自治労連生活保護職場担当者の全国交流集会
安倍自公政権が生活保護制度「改革」をすすめるなか、「自治労連生活保護職場担当者の全国交流集会」が大阪で開催されました。集会には全国から14地方組織31単組60名が参加しました。
生活保護制度はいうまでもなく憲法25条のもと、すべての国民に健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障する制度であり、悪政により貧困と格差が広がるなか現在200万人超の人が利用。しかし、その利用率は国民の1.6%と、生活保護捕捉率とあわせ欧米にくらべ圧倒的に低水準です。にもかかわらず、この間、安倍内閣は生活保護基準を大幅に切り下げ、同時に申請手続きの厳格化や扶養義務の強化、就労指導の強化など従来にない改悪を強行しようとしてきており、これら改悪攻撃に対し、先の国会では各界からの批判の声の高まりと反対運動の前進により厚労大臣でさえ「取扱いは従来と変わらない」と言わざるを得ないところまで押し返し、生活保護制度を審議してきた厚労委員会においても同様の付帯決議が可決される状況を作りあげてきました。しかし、その後提案された「省令案」は、厚労大臣答弁や「付帯決議」を反故にする内容であり、自治労連をはじめ中央社保協、利用者はパブリックコメントはじめとした運動等を強化し、省令案を国会審議を反映した者に変更させる成果を勝ち取ってきています。
自治労連は、2007年に生活保護の職場政策「住民の『生きること』を保障する仕事と職場をめざして」を提起し、この間、各地での運動すすめてきました。今回の生活保護法改正法と生活困窮者自立支援法の成立にともない、新たに、「人間らしく生きることを保障できる職場づくりのための生活保護政策提言(案)」を3月に発表しています。そのうえで、生活保護制度の改悪を許さない運動をすすめ、職場の実態を出し合い、憲法理念に沿った制度運営と働きがいある職場づくりを進めることを目的に交流集会は開催されました。
冒頭、自治労連福島副委員長は、「安倍内閣は集団的自衛権の行使容認に向けて解釈改憲により憲法9条を骨抜きにしようとしている。」、「同時に、憲法25条に基づく生存権をも脅かそうとしている。『社会保障制度改革推進法』に基づく医療・介護、年金、保育の改悪。その具体化として『医療・介護総合法案』が国会上程され、その先兵としての生活保護改革では生活保護基準の引き下げで2013年8月から3回に分け最大10%もの引き下げをすすめ、これに対し1万人を越える不服審査請求が上がった。自治労連は『仕事・職場から憲法を地域にいかす、自治労連全国交流集会』を先日開催し全国から350人を越える仲間が結集し、地域から憲法をいかし住民生活を守る自治労連の特別な任務を確認。本日からの集会を通じ、安倍内閣の生活保護への攻撃が住民生活や仕事にどのような影響をもたらすのかを考え、自らの仕事を見つめ直し、生活保護職場の実態を出し合いながら、働きがいのある職場づくりについて考えていこう。住民の立場に立った生活保護行政推進のために、予算・人員闘争を職場からどのように進めていくか議論していこう」と挨拶しました。
記念講演を「NPO法人朝日訴訟の会」の朝日健二さんが「人間裁判-朝日訴訟継承50年~当事者から見た専門職への期待~」と題し講演。この中で昭和31年に重症の結核患者であった朝日茂さんが岡山療養所に長期入院中、生活保護法に基づく保護基準による生活扶助費が憲法25条と生活保護法によって国民に保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」を満たしていないことを理由に厚生大臣に対し訴訟を起こしたこと、日本患者同盟や総評が全面支援し、マスコミも「憲法25条裁判」として取り上げ、結果、新憲法制定後、憲法25条に対しての最初の判決が「違憲判決」になるという、憲法理念を国民に思い起こさせるエポックメイキングとなったこと、朝日茂さんが「権利はたたかう者の手にある」と社会に呼びかけ続けた結果であったことが講演されました。その後、東京高裁による逆転判決に対し朝日健二さんが養子となり裁判を継承。最高裁が「上告人死亡により終了」としたものの、その後の保護基準算定方法の改善や保護基準の引き上げの大きな力となったことが講演されました。しかし、この10年内の動向は、国会で最低賃金と生活保護の逆転が議論になると財界は最低賃金の引き上げに難色を示し、生活保護基準の引き下げを要求。しかし、07年11月の最低賃金改正案の成立で「労働者の生計費を考慮するにあたっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に関わる施策との整合性に配慮するものとする(最低賃金法9条3項)」とさだめ、最低賃金の引き上げが始まってきた経過が話されました。
2013年に国連の社会権規約委員会が「日本の(第3回)定期報告書に関する総括所見」において、「生活保護の申請を抑圧されていることをとりわけ懸念する。生活保護の申請手続の簡素化を求める。」との所見を出しているにもかかわらず、日本政府が保護基準の切り下げや申請手続きの厳格化などを進めるのは国連からの要求を無視するものであり、欧米水準からもさらにかい離すると話されました。最後に、長野市福祉事務所が「扶養義務者の援助を申請要件とする」との文書を示し申請を受理しなかったことを知った医療福祉相談室の職員が疑問をいだき、日本共産党と共同し国会に持ち上げ、生活保護法改正案の審議に大きく反映したことを取り上げ、専門職としてその専門性をいかんなく発揮してほしいと呼びかけました。
基調講演は、生活保護問題対策全国会議代表幹事で弁護士の尾藤廣喜さんが「生活保護『改革』の中で自治体職員に求められるもの」と題し、自らの厚生省在職時の取り組みから「憲法25条にもとづく健康で文化的な最低限度の生活を保障するための生活保護制度の拡充、制度がなければ作ればよい。緊急性があるゆえに対応する意味」を意識的に持ち取り組んだこと、他の法律と異なり生活保護制度が「柔構造」であり、すべてを法律に規定せず「最低生活の内容は厚労大臣に設定権限がある」ことなどが制度拡充にむけた大きな「魅力」であることが話されました。あわせて、生活保護制度の大きな役割として「所得再分配機能」があり、民自公3党合意による「社会保障拡充のための消費税増税」がそもそも本末転倒であること、政府、マスコミが結託した「不正受給キャンペーン」による異常な生活保護バッシングの不当性などを明らかにしました。生活保護利用者の急増の背景に規制緩和政策を続けた国の責任と、人件費削減を重視し内需を軽視した大企業の責任、雇用保障の崩壊による非正規労働者の増加、年金改悪による高齢者の貧困が要因になっていることが報告されました。最後に窓口となる自治体職員に求めることとして①個別ケースをどれだけ大切にできるか、②生活保護制度の権利性と法を守るとりくみ、③年金の拡充を求める運動など他法他施策の充実を求め活用する、④よかったケースの共有と制度改正意見の発信、⑤ほかの職種、住民、運動団体と「社会保障充実を求める運動」の前進の必要性が提起されました。
基調報告を田川憲法政策局長が行い、生活保護制度をめぐる情勢と課題、「『人間らしく生きること』を保障できる職場づくりのための生活保護政策提言(案)」の策定経過と概要、今後の運動として①法改正や制度改正の理解を深めていく、②生活保護利用者増に見合った職場体制の構築、③生活保護利用者との共闘、雇用・社会保障の充実にむけて全国での旺盛な運動を呼びかけました。
二日目の分散会は、職場の実態を出し合い、生活保護制度の改悪や最低生活基準の引下げを許さない国民運動と連帯し、働きがいのある職場づくり、どんな福祉事務所の行政にしていくのか、働きがいのある職場づくりにむけた討論がおこなわれました。
交流集会最後のまとめ集会では、各分散会で論議された内容が報告され、「仕事の内容が分業化されていて、ソーシャルワークの意味合いが薄れてきている。」「職員の増員はされてきたが、経験年数が低くまたベテラン職員がいないため専門職と言われているが仕事内容の継承が出来ていない。」今回の政策提言については、「国からの一方的な改悪提案に対しどう対応していくのか。生活保護を受給する人がどうして増えているのか着目する視点が必要。社会保障の改善、雇用形態の問題など抜本的な改善が必要。財源は地方自治体に費用を押し付けるのではなく国が責任を持つべき。」「ケースワーカーのやり方や、言い方。保護法の柔軟性から来るものだが、利用者の立場に立てるかどうかが重要。」生活困窮者自立支援法については「法律自体はひどいが、『会議のための準備項目』など使える項目も多い。考え方次第では野洲市のようなものが作れる。現場の声のあげ方次第。」などの意見が報告されました。
今回の全国交流集会には各地方の現場で働く仲間が多く参加し、寄せられたアンケートには「いま、自治体労働者に求められていることが分かった」、「単組、職場で運動をすすめていきたい」などの感想が多く寄せられました。