川端総務大臣は5月29日、閣議で国家公務員の退職手当の見直しについて「共済年金職域部分と退職給付に関する有識者会議」においてまとめられた「中間的な議論の整理」(以下「整理」)を報告するとともに、今後この内容を踏まえ、具体的な立案作業を進めることと、労働組合との協議を開始することを報告した。
国家公務員の退職手当をめぐっては、人事院が3月に民間よりも公務が402.6万円上回っているとする調査結果を公表し、政府に対して「較差を埋める措置が必要」と見解を表明していた。これを受けた政府は「有識者会議」を設置し、3回の会合を経て、「有識者会議」は5月23日、当面の退職者について官民較差の全額を一時金である退職手当の支給水準引き下げにより調整することなどを内容とする「整理」を取りまとめた。
国家公務員の退職手当の削減のねらいは、その大幅削減により民主党政権のマニフェストである「公務員総人件費2割削減」を実現しようとするものにほかならない。また、この「整理」は、岡田副総理から、「できるだけ時間を置かずに」との要請により取りまとめられたものであり、消費税増税などの国民負担増の露払いとしての「身を切る改革」を早く国民に見せることにねらいがある。
今回の退職手当削減の問題点は、第1に退職後の生活設計に重大な影響を及ぼし、若手職員からも働きがいを奪うことである。退職手当は、賃金の後払い的性格を持つとともに、公的年金の支給開始年齢が引き上げられているなかで退職後の生活を支える重要な要素となっており、ましてや住宅ローンの返済を予定している場合などは、その大幅な削減は生活設計そのものの変更を余儀なくされる。また、政府が高齢期雇用施策において「定年延長」を見送り、再任用の「義務化」とするなかで、雇用と収入の両面から定年後の生活不安が増すことになる。このことは、退職を間近にひかえた職員ばかりでなく、若手職員にとっても働きがいや将来への展望を奪うことにつながり、安定した公務・公共サービスの維持にも影響しかねない。
第2に人事院の調査結果による官民較差の金額の解消だけに目が向けられ、較差を生んだ要因についての検証・議論がされていないことである。一部委員が、官民較差が拡大した要因について、民間の種々の事情だけでなく、公務の人員分布の変化を受けた部分があるとの資料を提出しているにもかかわらず、402.6万円ありきで議論が進められた。
第3に公務の特殊性や民間に比べ長期にわたる勤務実態を踏まえた検討がされていないことである。「有識者会議」では、一部委員が「公務の特殊性」に係る意見を表明しているにもかかわらず排除し、公務員のふさわしい退職給付のあり方などは議論されていない。
第4に高級官僚の法外な退職手当に触れていないことである。「現下の財政状況の下で国民の理解と納得を得る」ことを言うのであれば、これまで「天下り」とともに国民の批判の的になっているこの是正こそ求められる。
第5に公務公共関連労働者や民間にも影響することである。国家公務員の退職手当の削減は、地方公務員・教職員、公務公共関連労働者などへの連動が予想され、さらには民間の退職金にも影響を与えることなる。労働者全体の生涯賃金を引き下げるという点で、個人消費、引いては日本経済に少なからず影響を及ぼすこととなる。
自治労連は、公務労組連絡会の一員として総務省との交渉などを通じ、拙速な検討作業を許さず、十分な交渉・協議を求め、大幅な退職手当削減を許さない取り組みを強める。
国民負担増の露払いとして、国家公務員の賃下げに続いて大幅な退職手当の削減、再任用「義務化」による雇用と年金の接続、被用者年金制度の一元化等がねらわれていることなどを広く国民に伝え、消費税増税阻止の国民的なたたかいとも結んで運動を強めていくものである。