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特徴と問題 (6)今でも個人情報漏洩が問題なのに、企業まかせで一層深刻に

(6)今でも個人情報漏洩が問題なのに、企業まかせで一層深刻に
<自治体業務では、住民票発行等の窓口業務から>
 自治体業務のうち、まず市区町村の窓口業務である「住民票の写しその他の公的証明書の交付に関する申請書の受付・受理やこれら文書の交付・引渡し等を行う業務」を「特定公共サービス」に選定し、民間企業等がこれらの業務を行ううえで障害となっている法令等の特例措置を設けることにしました。
 戸籍法等の特例については、次のように規定しています。
(戸籍法等の特例)
第34条 地方公共団体は、氓ノ掲げる当該地方公共団体の業務を、官民競争入札または民間競争入札の対象とすることができる。
1 戸籍法…の戸籍の謄本若しくは抄本若しくは戸籍に記載した事項に関する証明書若しくは…磁気ディスクをもって調整された戸籍に記録されている事項の全部若しくは一部を証明した書面の交付…の請求の受付及び当該請求に係る戸籍謄本等又は除籍謄本等の引渡し
2 地方税法…の証明書…の交付の請求の受付及び当該請求に係る納税証明書の引渡し
3 外国人登録法…の登録原票の写し又は登録原票記載事項証明書…の交付の請求の受付及び当該請求に係る登録原票の写し等の引渡し
4 住民基本台帳法…の住民票の写し又は住民票記載事項証明書…の交付の請求の受付及び当該請求に係る住民票の写し等の引渡し
5 住民基本台帳法…の戸籍の附票の写し…の交付…の請求の受付及び当該請求に係る戸籍の附票の写し等の引渡し
6 町村長…が作成する印鑑に関する証明書…の交付…の請求の受付及び当該請求に係る印鑑登録証明書の引渡し
<個人情報を保護するための自治体の努力が水泡に>
 住民基本台帳には、氏名、出生年月日、性別、世帯主と続柄、戸籍の表示、異動年月日などのほか、選挙人名簿や国民健康保険、介護保険、国民年金、児童手当などの情報が記録されています。これらの情報は、住民基本台帳法第11条に基づいて原則閲覧可能とされ、写しを交付するものとされていますが、これらは住民の生命と財産、プイバシーを守るために公開を制限すべき情報です。

 閲覧によって取得した個人情報をもとに母子家庭を狙った犯罪や悪質なダイレクトメールを送りつけるために利用するなどの事件が相次ぎ、閲覧を制限すべきことは広く自治体関係者の常識となっています。自治体の窓口では、住民から「どうして市町村が閲覧させたのか」という苦情や抗議を受けることも多くなっています。

 このような状況の中で、窓口業務に従魔キる自治体職員は、DVから保護するために本人の申し出によって現住所を秘匿し、あるいは金融業者の悪質な取立てから家族を守るために現住所を秘匿するなどという現場での工夫を日常的に行っています。閲覧の理由を公益目的に限定する自治体も、続々とうまれています。自治体の戸籍や住民票の事務を行っている協議会(略称「戸住協」)も、再三、国に対して、法律の改正を要請してきていますが、国はあまりにも鈍感な対応を続け、やっと重い腰を上げて制限するための法律改正を準備しはじめました。

<民間企業等が全国民の個人情報を検索し、事実上、住民票写し等を交付する立場に>
 「法律案の概要」に添付された説明資料によると、「現時点で予定されている主な対象事業の例」として、「住民票の写しの交付等を土日を含め、受付時間の延長や駅等便利な場所で引渡し」を挙げています。もし住民サービスの向上と事務の効率化を図るならば、自治体職員が申請書の受理や証明書の交付をおこない、民間企業等は封緘された証明書等を取り次ぐだけでなく、民間企業等の従業員が受付窓口に設置された端末機から直接検索し、即時処理することになります。この場合、「交付」を電子公印による認証行為だけに限定すれば、民間企業等の従業員による事実上の交付が可能と思われます。

 ところが住民票写しの場合、住民基本台帳全国ネットワークによって広域交付される(ただし本人のみ)ことになっており、受託した民間企業等が端末機を通じて全国民の住民情報を検索することが可能になります。どこかのひとつの自治体から情報が遺漏すれば、その被害はすべての自治体と国民に及ぶ危険性をはらんでいます。住民基本台帳等の制度の信頼性そのものを揺るがす事態に直面しています。

 また戸籍謄抄本や印鑑証明書の発行(たとえ取り次ぎでも)まで拡大することは、窓口業務をおこなう民間企業等が印鑑登録されている印影や、血縁関係を直接知る立場におくことになります。

 しかも住民基本台帳の閲覧や住民票写しの発行等は、債権取立てやローンの設定などの業務上の理由から、民間企業等が閲覧、取得している例が多くを占め、窓口担当職員はこれらが犯罪や住民のプライバシー侵害等につながらないように、規制をかけています。しかし民間企業等がおこなう場合、窓口開設時間の延長やスピード、処理件数の実績等が競わされ、現在、自治体職員がおこなっている住民の安全と権利を擁護するための規制が働かなくなる恐れが多分にあります。

<住民のプライバシーを丸ごと民間企業等にゆだねてよいのか>
 行政情報や住民情報が目的外に利用され、あるいは故意又は過失によって遺漏するおそれに対しては、民間企業等の協議による契約の解除(第34条5項)、民事上の損害賠償責任が発生するだけでなく、守秘義務規定及びみなし公務員規定を設けるので防止されるとしています。「市場化テスト法案」では、民間企業等の秘密保持義務等について、次のように規定しています。
第25条 公共サービス実施民間事業者若しくはその役員若しくは職員その他の前条の公共サービスに従事する者又はこれらの職にあった者は、当該公共サービスの実施に関して知りえた秘密を漏らし、又は盗用してはならない。
2 前条の公共サービスに従事する者は、刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。
第34条 9 公共サービス実施民間事業者は、特定業務取扱事業所(公共サービス実施民間事業者が特定業務を取り扱う事業所をいう)に勤務する者が特定業務に関して知り得た情報を当該特定業務の取扱以外の目的のために利用することを防止するために、必要な措置を講じなければならない。
 しかし、そもそも「市場化テスト」という制度は、行政機関の関与を最小限に止め、民間企業等の「創意と工夫」を最大限に保障することを特徴としています。この市場化テストの特徴をみるならば、このことをもってプライバシー等が確保できるとは到底言えません。「民間開放」と引き換えに、重要な個人情報が大量に漏洩し、住民が生命や財産の被害を受ける危険性をはらみ、住民のプライバシーが脅かされるおそれが強まります。

 秘匿性の高い住民情報の管理を民間企業等に委ねる「市場化テスト法案」は、自治体と自治体職員が行っている努力を水泡に帰す制度だといわざるを得ません。


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